9 変な二人組
開けた緑一面の草原の隅。
少し小高い丘の上の草むらの中で、俺とアマヤは身を潜めていた。
「アイツだな。仲間もいなそうだし周りに人もいない」
姿勢を低くして身を隠しつつ、低い位置で孤立しているプレイヤーに指を差す。
「狙うのはアイツがモブを狩ったあと、アイテムを拾う瞬間だな」
「はい......!」
一人の蛮族が草原の中で剣を両手にモンスターと対峙する。
慣れた身体さばきでモンスターを切りつけ、容易くモンスターは倒される────。
「今だ!」
倒したモンスターからアイテムを回収する瞬間。俺は限界まで張った弦を離す。
次の瞬間、2本の矢が蛮族の頭に突き刺さった。
「は────ウソだろっ.......?!」
「よし.....っ!」
バタリ。
男は倒れ込み、輝く塵へと変わっていった。
「行くぞ!」
周りに人がいないことを確認し、俺達は男の死体の下へと駆け寄る。
アマヤにアイテムを回収するよう指示を出し、俺は周囲を警戒する。
「回収できましたっ......!たくさん持ってましたよ!シナナキ.......」
─────っ、待て!
声を上げるアマヤを手で静止する。
静寂を破るように、近づいてくる足音が大きくなっていく。
「──────あっ!!これっ.....ウチがビンゴじゃないっすか?!部長!」
そう、黒髪短髪の青年が。
そして背後から、大柄の白髪の混じった壮年が。
「部長はヤメロっつってんだろ、セオ!だが、白髪野郎と小豆色────俺達がアタリめてぇだぜ」
俺達の目の前に二人の男が立ち塞がった。考えるより先、俺もアマヤも武器を取り出す。
青年の口ぶりからコイツらは騎士か?ブルーの口から俺達の特徴が挙げられて、いわゆる“指名手配”をされていると考えるのが自然だろう。
「あー、けど部長。これってもう攻撃しちゃっていいんすかね」
「バカセオ!んな会話聞かれたらシロートだってバレちまうじゃねえか!」
ゴチンとセオの脳天に拳骨が直撃する。
な………..何だこのオッサン共.....!
「.......騎士、ですかね」
小声のアマヤに俺は小さく頷いた。
多分─────俺がブルーを倒した場所付近の店に騎士を配置して数分間だけ警戒させる。それを察知した俺が店にいかなくなることを読んで、今度は俺が次に行きそうな場所に騎士を向かわせたってところか。
「あー.........悪い、もうどっか行っても良いか?」
そう言って、ドサクサに紛れて抜けようとする俺に、慌ててセオと呼ばれる青年が駆け寄る。
「あ、銀髪の君!蛮族ですよね!?」
「本人に聞くやつがあるか!!騎士以外で武器持ってるヤツは皆蛮族だっつってただろ!」
再び壮年の怒号が響く。
「そうでしたっけ?じゃあ遠慮なくやっちゃっていいってことだ!へへっ!ここは一丁手柄をとって昇進狙っちゃいますか!」
肩を回し、いかにも気合をいれようという仕草をする青年。
「こんなとこでまでシゴトの話出してんじゃねえよセオ!」
呆れる壮年を他所に、セオが剣を持って駆け上がってくる。
雄叫びを上げ、目を見開く。
「うおおおおおおおおおくらえええええええっ!!!!!」
剣を頭上まで大きく振り上げるセオ。
「はああああああ!!竜・撃・ざ─────ッ」
──────ぱすっ、と。
「ぐあッ............?!」
情けない音を立てて。
剣を振りかぶるセオの足に一本の矢が突き刺さった。
「やりましたよ。シナナキ!」
背後から意気揚々とアマヤ。
「あ、ああ。よくやったっ」
「セオ─────ッ!!!」
そのまま倒れ込んだセオの下へと、壮年が走る。
震える手で胸を抑えながら、セオが言葉を絞り出す。
「はっ.....はは、こりゃあ助からないっすわ.......部長...」
「くっそ!あの女やりやがったっ!ポーションっつったか?....あの赤い瓶がありゃあ....!」
頬に汗を垂らしながら、壮年は必死にポーションを飲ませようとする。
足から、だらだらと血を流すセオに。
「──────いやっ、当たったの足じゃねえか」
思わず、俺も突っ込まざるを得なかった。
「セオ!平気なのかよテメエ.....?!」
「へ、へへっ.....部長!めちゃくちゃ必死になって!そんなに俺のことが大事なんすか!?」
今とばかりにセオが、倒れたままニヤけ顔を浮かべる。
しかし雲行きの怪しい部長の顔を前に、徐々にセオの表情から血が引いていく。
「あァ....セオ。今楽にしてやるからよぉ.......!」
「ちょ、ちょっと!!今はホントにまずいですって!!!」
本気の拳を食らわせんとする壮年と、慌てるセオ。
俺の隣から呆れのため息がひとつ。
「アンタら、大丈夫か.....?」
「.....部長、敵に心配されちゃってますよ。折角見つけたのに....昇進とか言ってる場合じゃねえっすよ」
「それはオメェが勝手に言ってただけだろ!....クソ、仕方ねえ。今回はもうダメみてえだなぁ」
頭を抱える壮年がこちらを振り向く。
「そうだぞっ!部長は初めてゲームやる50のオジサンなんだからな!!」
「セオォ─────ッ!!部長はヤメロつってんだろうが!!いいかお前ら、俺は鬼瓦だ覚えとけ!次は必ずとっ捕まえてやるからよ!」
「ああ、頑張ってくれ。次会うときを楽しみにしとく」
ひらひらと手を振って二人に背を向ける。
同じ会社の先輩後輩が、たまたま抽選に当たったって感じなんだろうが.........どんな確率だよっ?
中々さきが気になるコンビだな。
「部長......俺達本気でまずいんじゃないすか....?」
「メソメソ言ってんじゃねえ、セオ!......メイワクかけないよう頑張るっきゃねえぞ....!」
「ていうか部長、見つけたら連絡しろって......」
「やべっ?!」
「......内緒にしときますかっ」
「─────だな!」
そんな会話を聞きながら、俺が草原を後にしようとしたところで、
「ぎゃあああああっ、ちょっ───?!」
「どうしたセオ......っ?!」
「やっ、矢が.....!」
和解して別れたはずの男たちの悲鳴が上がった。
いくつかの風切り音とともに。
「おい......アマヤ」
「お、鬼ですよこの人っ?!部長!本当の鬼瓦がいましたよっ?!」
振り向くとそこには、地面に伏すセオと鬼瓦の姿が。
そしてそこへ容赦なく弦を引くひとりの女がいた。
「なにが鬼瓦ですかっ。では、さようならですね」
「おっ、おい嬢ちゃん....!!勘弁────」
「うあああああっ?!」
おお....容赦ねえ。
「よしっ、やりましたね。シナナキ」
振り向いて、アマヤがニコリと笑う。
ちょっとかわいそうと思ってしまった俺は、まだまだ心意気が甘いのかもしれないな.......。




