8 草原
「見ろ。開始から10数分経って、スタートダッシュを張り切ってるやつがたくさんいるぜ」
「プレイヤーのことをモブだと思ってませんか?」
草原──────MMOでは定番とも呼べる、雑魚モンスターが湧く一面に渡るグリーンカーペット。
しかしこのゲームに於いては、自分もまた狩られる側だということを理解しなければならない。
自分が狩られる側だと気づいていない呑気なプレイヤーに限っては、格好の獲物とも言えるのだ。
「セコセコ雑魚狩りに励んでアイテム集めるより、人が頑張ったモノを奪い取る方が手っ取り早いと思わねえか……なあアマヤ?」
振り向いてそう言うと、俺の表情を見てか、アマヤがため息をついた。
しかし途端に思考が言葉の意味を理解したのか、アマヤは180度表情を変えた。
「あれっ......というか、そんな凄い仕様だったんですかっ?!」
「ん.....?もしかして、お前、このゲームのこと全然知らないのか?」
「いや、まぁ……そうですけど」
そんな基本的なことも知らないなんて、と一瞬考えたが口にするのを踏みとどまった。
確かに、事前情報無しでゲームを楽しみたいというのも一理あるからだ。
「……わかった。よし、一瞬で情報を共有するぞ」
真面目な雰囲気を察知したか、アマヤも真剣な表情を見せる。
「まず、このゲームは昔からのMMORPGみたいな『みんなと協力して冒険し、強敵を倒す。』みたいなゲーム性じゃない」
「協力っていうより、蹴落とし合いという感じみたいですね」
MMOはほとんどのプレイヤーが名目上仲間という形が多いが、このゲームの蛮族は自分以外の殆どが敵だ。
「『みんなと殺しあって、強いプレイヤーのアイテムを奪おう』が基本だ。勿論、完全なpvpじゃなく敵モブからアイテムなんかを手に入れたりするのが前提だ」
「いわゆるPKが基本、ですよね」
プレイヤーには理性があるから蛮族同士でも手を組んだり、騙し合いが起こったりするだろうけどな。
「そうだ。ただ、そういう実力重視だと下手なやつが永遠と狩られるだけのしょうもないゲームの出来上がりなわけで、それを防ぐために騎士って陣営があるわけだ」
その説明に、アマヤは口を半開きにする。
「それを防ぐために……?」
「騎士は蛮族と何が違うかっつーと、騎士は「初心者救済措置」なのさ。騎士の仕様として、騎士は無料で装備が支給される。さらに初めから他の騎士全員とチームってことになってるんだ」
「ああっ、じゃあよく分からなくて戦闘が下手でも、装備や仲間だけは勝手に手に入るってことですね」
今度は分かったとばかりに、アマヤが嬉しげな表情でぽんと手を叩いた。
「そういうこった。で、死んだ時の仕様についてだ。さっきも言った通り、このゲームで死んだ場合.......」
俺の言葉に、食い気味にアマヤが答える。
「全てのアイテムを奪われるということですか」
「そうッ!」
急にデカい声を出すと、アマヤが小さく体を震わせた。
「死んだらやり直し。心臓バクバクで、手汗ダラダラの極限ファイトだ……楽しみだなあ……」
想像するだけでワクワクしてくるだろう。
そんな俺に、侮蔑の視線が刺さった。
「や、やっぱり変態ですかっ…?」
「落ち着け……俺たちみたいなのばっかじゃないからな。このテンションだと、他の奴にヒかれるかもしれないぞ」
「なんか私も勝手に変態にされてませんか…?!同族を見つけて思わず喜んだわけじゃないんですけどっ?!」
アマヤが直剣を俺の方へと向ける。
「ほらな?」
「いやっ……!?」
「バカやってないで早く行動するぞ。そろそろかなりのアイテムをかき集めてくれてるだろうよ」
その言葉に、静かな怒りを募らせながらアマヤが返答する。
「……なんだかむしゃくしゃするので早く戦いましょうか」
これ以上怒らせるのはよくなさそうだ。
そして戦いについてだが、
「─────俺もそう言いたいとこだが、今回は特に俺たちの素性がバレるとまずい」
「ええと、恨まれるからですよね?」
すぐに答えを言い当てられ、素直に感心する。
「ああ。見知らぬ装備屋の店主や、はなから絶対的に敵同士の騎士たちはいい。─────ただし蛮族に限っては違う」
「仲良くなれる可能性もありますからね」
「なんだアマヤ。やけに冴えてるな。怒っているときのほうが頭が働くんじゃねえか」
────ポカン!
と速攻で殴られた。HPは減ってない。
「っとまあ、そんな感じで絶対にバレないようにしたほうがいい」
「....で、どうするんですか」
俺はどどんと言い張る。
「コイツを使う!」
「それはっ……弓……?」
「そうだ。覚えてるか?」
「あっそういえば、ブルーを殺す時」
ブルーを殺す時。
親切にもブルーが俺の質問に答え、今のHPを教えてくれたおかげで、弓のダメージを大体知ることができた。
「見ただろ?至近距離……恐らくレベル1の状態なら、ヘッドショットで8割以上は削れる」
「………!でも、レベル上げをしているでしょうし、バレないように遠距離から撃ったら─────」
食い気味に、俺は再びインベントリからアイテムを取り出す。
「そこでここに、もうひとつだ。2回当てれば問題ないだろ?」
ダメージやHPに多少差があったとしても、2発も当てれば流石に倒せるだろう。
「用意周到ですね」
「万が一死ななくても、バレないうちに隠れれば問題なしだ。弓だからな。じゃ、いい感じの撃つ場所を探すぞ」
足を進めようとした俺の肩を、アマヤがぽんと叩いた。
「でもシナナキ、持ち物は大丈夫なんですか?盗んだアイテムが一杯あるんじゃ」
確かにそれはそうだ。
俺のインベントリには多くのアイテムが入っており、死んだら一巻の終わりだな。
「お前、わかってねえなぁ......死んだらヤバイ!って状況が楽しいんだろうが」
そう言うと、アマヤは顔をむくらせて俺から視線を反らせた。
「ちゃんと言いましたよ?じゃあもう、知りませんからねっ」
アマヤは“絶対に勝ちたい”ってタイプだろうから、こんなことはしないよな。効率をとる。
俺は勝つことにも全力だが、それは俺が楽しみたいという大枠の中の話だ。
「ま....一応屁理屈程度の話をしてみると、アイテムを持ってたほうが緊張感ってのは高まるから、生存率は上がるだろうな。ただ、生存できなかったときの損が大きくなるだけで」
「トータルで見たら、絶対に持ち物はしまっておいたほうがいいですよ。緊張感も、意識すればいいだけだし」
「じゃあ預けるか。アマヤだけ」
その言葉に、数秒の沈黙が訪れた。
「預けるなんて言ってませんよ」
「............お前、負けず嫌いすぎるだろ」
それはもう、俺が出会った中で一番と言ってもいいかもしれない。




