7 シナナキ
「『シナナキ』....?」
「ああ、俺のことはそう呼んでくれ」
正式に仲間になることが決まった俺達は、改めて互いに名乗ることになった。
彼女も自身のことを『アマヤ』と名乗った。そして、予想通りそれはプロゲーマーとして活躍している女性プレイヤーの名前であり、やはり屈指の実力者ということだ。
「えっ.....シナナキって....?」
「知ってたか?」
「知ってるもなにも.....いや、絶対に分かってて言ってますよね?」
少しだけ得意げな俺に、アマヤはむすっとした顔を見せる。
「まあ落ち着けよ。他ゲーでも言ってくれたら対戦してやるからさ」
「シナナキと喜んで対戦したいって人なんていないですよ、多分」
意外にも、俺の名はある程度世に知れているようだった。
ただ─────悪い意味として。
「まあ仲間としては心強いですけど。それはそうとして、その......どういう由来なんですか?あ、別に詮索したいとかじゃないですよ?」
まあ.....世間の評価的に、俺は『謎の人』って感じなんだろう。
SNSやらなんやらで『シナナキ』として活動していないから、気になったところで誰も連絡すらできない。俺と対戦した相手がネットにそれを投稿している程度だ。
「詮索されるのが嫌ってわけじゃない。で、シナナキってのは苗字でもない。話すと少し長いが、気になるか?由来」
「じゃあ折角だし教えて下さい」
俺は素直にプレイヤーネームの由来について話していく。
「シナナキって呼ばれ始めたのは、3、4年前からだったか。それ以前は特に固定せず、適当に名前をつけていた。当時から俺は、誰もやらない変な戦術、ネタとも取れたり、人によっては卑怯だと言われるような行動をしてたんだ」
別に逆張ってたわけじゃなく、本気でやっていただけですけど。
「へえ、3、4年前なら|Steel Clashとかですか」
「そうそう」
|Steel Clash。
C社がこのゲームの土台として作ってきた、数々のゲームのうちの一つ。このゲームの戦闘システムと似た『無骨なファンタジーの戦場』。剣と魔法の派手なアクションバトルとは程遠い、突き詰めた硬派。
魔法の詠唱には時間がかかる割に地味だとか、剣は振りが重く、大抵盾で守られてしまうとか。だからこそリアルで、アツいゲームだった。
そんなゲームで俺は、例えば、そう─────。
「『メタルスクラッチ』.....とか、呼ばれてたっけか」
「あ、え....?もしかして.....っ」
「そう。あれは俺がやり始めた技だ。“音”関連でなにか戦いに役立つネタがあるかと探していたときに、偶然見つけたんだったな」
『メタルスクラッチ』。知る人ぞ知る、|Steel Clashに於いて歴史に名を刻んだ“最悪”の戦法の一つ.....らしい。
「あ......あれを広めたの、シナナキだったんですか。いや私は動画で見ただけなんですけど、あれは流石に最悪すぎる技ですね.....」
「いやあ、あれは確かに酷かった。使ってる俺自身も勝ってて気持ちよくないから、すぐに使うのは辞めたな。そうしなくても、数日も経たないうちに運営が修正した案件だったけど」
技の原理としては─────特定の金属に対し、レイピアの切っ先をうまく擦り合わせることで『聞くに耐えない異音を出す』というもの。人間にとって不快な周波数とも呼ばれる、黒板を引っ掻いたような異音を撒き散らすことができる。
そして自分は耳を塞ぐような装備をすることによって、相手に不利を強いるという卑劣極まりない技だ。
…….いやあれは本当に最悪の技だった。当時の数日間という短い期間ですら、耳を塞ぐ装備でなければ戦いにすらならないほどだった。
「今は大分丸くなったけども、その時期は相当な嫌われようだったな」
今では一定の支持層があるみたいだが、もともとは100人中100人に嫌われていたと、言われたことがある。
「いやいや、今でも全然変わってないですよね?」
『スリ』というスキルを身を以て体験し、そこから俺が『挨拶のフリをしてプレイヤー全員から持ち物を盗んでいた』という事実を知ったアマヤが、そう言った。
勝つことだけ考えていた昔とは変わったが、結局のところ、根底は変わっていないのかもしれない。
「.........それで結局、由来はなんだったんですか」
「その話だったな。『メタルスクラッチ』なんかを開発したり、勝つために手段を選ばなかったりしてた結果─────」
どこからか勝手にあだ名を付けられたんだ。
「俺は─────────『品無し野郎』......そう呼ばれてた」
「すごいダサいじゃないですかっ....?!」
悪かったな、品なし野郎で。
「そこからは時間とともに『品無し』から、漢字二文字の『品無』へと変わった」
「それで、読み方を変えて『品無』になったんですか」
「一応、ランキングのトップだったから……最強の妖怪とされる『空亡』ってのと掛けて、そう呼ばれるようになったみてーだな」
アマヤが感心したように頷く。
忌み嫌われて付けられた名前だが、なんだかんだ語呂が良くていい気もしていた。
「そういうお前はなんで『アマヤ』なんだ?」
「そ、それは......べつに適当ですよ」
ああ、これは本名のやつだな。絶対にそうだ。
苗字が天谷か、はたまた、名前が甘弥とか。予想をしていると、話題をすりかえられる。
「それで.....これからはまた店を周るんですか?」
「いいや、多分プランは変更になる」
「えっ?どうしてですか?」
「ちょっと来てみろ」
薄暗い路地裏から明るい大通りへ、そこから少し歩き、俺達はさっきとは別の装備店へとやってきた。
「あった、装備屋だ。こっそり近づくぞ」
「何をするんですか」
襲わないならなぜ、というアマヤを手で静止しつつ、静かに店の近くまで体を寄せる。
一見普通の店。だが店の入口の横の路地をこっそり覗き込むと、二人の男が身を隠しているのが見えた。
「見ろ。ありゃあ騎士だな」
指を差し、後ろのアマヤが見えるように身をよける。
「まさか、張り込みを....?」
「ブルーの奴が頑張って対策したんだろ。堂々と強盗するって言ったからな」
このテンポ感からするに……死んだプレイヤーが復活する時間はざっと1~2分ってところか?
ひとつ気になるのは、こんなわかりやすい対策をしてくるって違和感。
ただ、必要以上にビビってたら身動きが取れないってのも確かだ。
「よっし、じゃあさっさと別のとこ行くぞ!」
「あっ、ちょっとどこ行くんですか!」
「草原。次の狙いはNPCじゃねえ。プレイヤーだ。始まってから2、30分って時間……いいタイミングだろ?きっと草原でコツコツ小銭稼ぎしてる蛮族たちがいるはずだ。そいつらのアイテムを回収といこうじゃねえか......!」
イタズラを思いついた子供のように言ってみると、アマヤがジトリとした目を向けてきた。
「やっぱり変わってないじゃないですか」
「かもな。もっとキレイなのがお好みか?」
「.......別に、ゲームに対して真剣に情熱をもっているのはわかっているので。私は型にはまったスタイルばかり好んでますけど、型破りなのも嫌いじゃないですよ」
そう言って、アマヤも微かに口元を緩めていた。




