6 仲間
バンディットオンラインを開始して十分前後。
始めたばかりの序盤にして、私は頭を悩まされていました。
「なあ、お前。俺の仲間にならないか?」
それは、私から装備を盗んで逃げた後、何故か共に強盗をするように差し向けた男からの言葉でした。
この男が実力者だということは蛮族のフリをして接近したブルーを暴いたことからも分かりました。けれどそれ以上に、即答できるわけがない。
「おい、なんだよその不審物を見るような目は」
実際あなたが不審者だからですよ。
という言葉は喉の手前で飲み込んだ。
「私の剣を盗んで逃げたじゃないですか。この流れで仲間になりますって言うほうがおかしいですよ...!」
「ほら、それは返しただろ?それに店のものも上手く盗めて良かったじゃねえか」
「そうですけど、納得いきません.......!結果良ければすべてよし、じゃないですから。だって最初に私に近づいた理由って、盗むことか、そうでなく仲間にしようとしていたとしても、道端にいた女の子をあわよくば引っ掛けようとしただけじゃないですか?」
普通に考えればそうですよ。
ゲームの中にだって当然、そういう下心をもって声を掛ける人は居る。
私の実力を知って声を掛けてくれるならまだしも、きっかけがそういった邪なものだと知っていてついていくのは嫌です。
────そんな前提を覆す一手を、男は切り出した。
「例えば、お前が“ヴォルネ”の“アマヤ”だと最初から知っていたとしてもか?」
「.......!?」
それは、私が所属するゲーミングチームと、他でもない私自身のプレイヤーネーム。
『俺は一般抽選の参加者以外はリサーチしてる。こうやって会って話せば、アバター、性格、声なんかで誰か分かるくらいにはな』......そう、確かに彼が言葉にしたことが頭によぎる。
本当に、初めて会ったときから私の実力を知っていた?
「今さっき分かったとか、そういうことでもないぞ。最初に盗んだことを明かしたことも、一緒に強盗をするようにしたのも、はじめから“ヴォルネ”の“アマヤ”をスカウトしたかったからだ」
そうかもしれない。
けど。
「けど、待ってくださいよ!最初からそのつもりなら、なんでこんな回りくどいことしたんですか!」
同時にそう考えるのも自然じゃないですか。
いきなり泥棒されて、いい気持ちで仲間になろうと言えるわけがないですよ!
そこで、私の感情をさらに爆発させる言葉を男が放った。
「そりゃホラ、お前って............最初に喧嘩しないと仲良くなれないタイプのキャラだろ?」
なっ?!
と、予想だにしない返答に、顔が急に火照って赤くなる感覚が巻き起こる。
それなのに、それが自分自身でも妙に“そうかもしれない”と思ってしまったのか、口から言葉は出なかった。
「いや悪い意味じゃなくてだな」
「もう!わかりましたよ!あなたが浮ついた軟派野郎じゃないってことはわかりました!」
「おお、ならよかった」
まったくもってノンデリケートだ。
「じゃあ仲間になってくれるか?」
「.......最後の、質問で決めます」
今すぐ断っても良い......と、思っているはずなのに。
こころのどこかで彼の実力に興味を持ってしまったのでしょうか。
「なんで“私”なんですか。その......悔しいですけど実力が上の人なら............」
「それだよ、それ。自分の実力を認めつつも、心底納得したくないって表情」
私の言葉を待たず、男は間髪入れず口を挟む。
「え.....?」と、喉の奥から微かに声が漏れる。
「強いやつならいくらでもいるが、『強くてやる気のあるやつ』ってのは貴重だ。アマヤ、自覚してないだろうけど、お前みたいなのは“ひっぱりだこ”なんだぜ」
「ひっぱりだこ....ですか」
そう言われて、素直に喜ばしくなる。
ゲームに対する熱量、心意気、そういうものは自分が最も誇れるものだと思うから。
「大体分かっただろ?理由とか経緯とかはさ」
私は意を決する。
覚悟を決めて、迷わず手を差し伸べた。
「─────わかりました」
「なってくれるのか?仲間に」
男は少し驚いた表情で答え、段々とその顔を明るくしていく。
「ええ、いいでしょう。私があなたの仲間になります」
この男はきっと、このゲームを始める前から私を、あるいは私と同じようなプレイヤーを探していたんでしょう。彼もまた、熱意のあるプレイヤーだから。
強いて言えば、決め手はそれかもしれない。似た者同士は惹かれ合うということでしょうか。
私達は小さく握手を交わしました。
これから協力して、高め合っていきたい。
けど───────。
「たださっきみたいな変態みたいなことはやめてくださいよ!」
私にも、譲れないものはあった。
「あ?.........もしかしてパンツのことか?いいだろパンツくらい。ゲームじゃただの布切れだぞ?パンツなんて」
「連呼しないでいいですよ!もう、早速チーム抜けますよ?!」
「あーわかったわかった。もう辞めるから」
そんな会話に今後どうなっていくか頭を抱えそうになりつつ。
新しい冒険の始まりのような、妙な興奮があった。
─────────────────────────────────────
「いやあ.....悔しいね」
「あれっブルーじゃん。どこ行ってたんだよ?」
リスポーンしてすぐ騎士団の本部へ向かうと、すでに多くの騎士たちがロビーに集まっていた。
「遅れてすまない。ギャーベッツくん。はははっ、早速やられてしまったよ」
「へええっ?!」
キルされてしまったと朗らかに話す僕に、芝犬を彷彿とさせる、短い茶髪のギャーベッツくんが驚きを見せた。
「んー...?なによブルー、もうやられたの?」
次に会話に入ってきたのは、身長が135cm程度の、床まで届く長い金髪の幼女。昔から色々なゲームで僕と馴染みのあるマグカップというプレイヤーだ。見た目の可愛らしい雰囲気とは裏腹に、常に眉間にシワを寄せているようなむすっとした表情で、口調からも妙な貫禄がある。
「ああ。僕から仕掛けたんだが、正直......完敗だったよ。みんなから“推薦”されてる身としては申し訳ない限りさ」
「そうよー?アンタは“団長”候補の筆頭なんだから」
有り難いことに、僕は既に騎士団の団長へとみんなから推薦の声が上がっている。
今までいろんなMMORPGでクランリーダーを努めてきているから、自分で言うのは恥ずかしいけれど信頼を得られているんだろう。
「そうだね、マグ。これから頑張るよ。こっちも、いい情報を手に入れたしね」
「おっ、なんかいい情報?」
ギャーベッツが興味を示してくる。
「ああ────みんな聞いてくれ!」
ロビーに集まる全員に向け声を張り上げる。
雑談の声が止まり、周囲の注目が集まった。
「気づいた人もいるかも知れないが、騎士メニューを見てほしい!既にとある商店からの通知がいっている筈だ!」
「えーっと......5番通りの装備屋で蛮族による強盗発生......3分前。だってよ、マグ姉」
「早ぁっ!まだ15分くらいしか経ってないのよ?レベル上げも装備集めもせず、早速強盗なの?」
メニューを確認した者たちから、次々と喧騒が広まる。
「もうその事件については終わったことだが、もうこれからどんどん蛮族が動いてくるはずだ!みんな気を引き締めてほしい!それと、僕はその強盗の近くにたまたま居合わせたんだ」
「あら。もしかして、そのときにやられたのかしら?」
マグカップの言葉に僕は頷く。
「僕は逃げた蛮族二人を追って、蛮族のふりをして接触した。が、見事に騎士だと見破られてしまってね」
「へえッ?!初っ端から戦いが高度すぎるだろっ!」
「ふぅん、別ゲーのプロどもかしら」
ちなみに僕とギャーベッツはゲームの動画投稿をメインにしているインフルエンサー枠だ。
そして、
「いいやマグ、君と同じ『ランキング報酬』枠さ」
「へぇ....誰なの?まさか遠藤のやつじゃないでしょうね」
「君たちも名前くらいは知っていると思うが....犯人は恐らく────『シナナキ』だ」
「『シナナキ』って.....っ!?」
たちまちロビーが騒然とする。
『シナナキ』.....フルダイブ型VRゲームが始まって以来、最も名の知れたプレイヤーの一人。
圧倒的な強さは勿論、セオリーから外れた独自の攻略をしていくプレイヤーとして、一部から熱狂的な崇拝を受けている。だが世間への露出はほとんど無く、よくわからないが何故かいつもランキングに名前が載っている人という印象を持たれている。
「ほぼ間違いないだろうね。ランキング報酬者で面識がないのは彼くらいだ。それに何より、こんなすぐに行動を開始していて、華麗に僕の偽装を見抜いてみせた実力者。マグはどう思うかな」
「........シナナキ、ふぅん!」
「あれっ、どこ行くんだよマグ姉」
僕の質問には答えずマグカップは長い金髪に翻し、スタスタとロビーを出ていった。
「ギャーベッツくん。ほら、マグは“負け”てるからさ」
「えっ、もしかして。ランキング?」
「ああ。確か、『ヒート&ビート』ではマグが3位、シナナキが2位。ほかのランキングでもシナナキはトップ5に入っていたみたいだね」
負けず嫌いなマグカップは、よほど悔しがっていることだろう。
「まぁっじかよ....?!じゃあチケットたくさん持ってるってことか?!」
「どうなんだろうね」
曖昧な返事をしつつ、僕もこれからの事を考える。
「みんな。さっきも言った通り蛮族たちはもう行動を開始している。僕に従ってくれる人は、これからすぐに話し合いをしたい。集まってくれるかい?」
シナナキは最速で攻略していくつもりだ、僕らも悠長している暇はない。
..............僕らも噛ませ犬になるつもりはないよ。シナナキ。




