5 ネタバラシ
男は、一瞬だけ呆気にとられたように硬直した。
そして自分の眼の前に落ちた腕と、音を立てて破散したポーションを見て。
その目を大きく見開いた。
「何でっ.....?!」
その数秒にも満たない動揺を見逃さず。
切られていない方の左手を掴み、俺は男を馬乗りに押し倒した。
「─────さて...なんで分かったか、気になるよな?」
自分が罠を仕掛けてると思ってる奴は、逆に嵌められてると気付けない。
満面に笑みを浮かべると、男の表情が180度険しい方向へと変わった。
「はっ?えっ.......?!何してるんですか?!」
少し遅れて、小豆髪の女が驚きを見せる。
「まあ落ち着け。コイツは蛮族で、俺等をハメようとしてたってだけだ」
「ええっ........!?」
「何故わかったんだ.....?」
金髪の男と目を合わせる。
勿論、俺はヤマカンをあてに行動したわけじゃない。ちゃんと可能性を一つ一つ潰して、確信を持って騎士だと断定した。
「分からない。シッポは見せていない筈だけどな.......」
「まあ、こっちも色々と情報を持ってたんでね。『ブルー』さん」
「........へえ、何で分かったのかな?」
ブルー。
明るく社交的な性格で、抜きん出たプロ並みのゲームプレイから、揺るがぬ人気を誇る配信者の一人。ファンタジー系のVRゲームを好んでプレイし、騎士などのロールプレイングも得意としている男だ。
「俺は一般抽選の参加者以外はリサーチしてる。こうやって合って話せば、アバター、性格、声なんかで誰か分かるくらいにはな」
勿論、参加が事前に分かっていた人だけな。
「ふうん、でも一般参加の中にたまたま似てる人がいる可能性もあったよね」
その可能性は当然あったので、最後まで疑いにとどめていた。
「まあ、蛮族のふりをデキるような奴とわかった時点で俺の中ではブルーと確信したがな」
「......それは褒め言葉と受け取っておこうかな」
ブルーが自嘲気味に微笑んだ。
ブルーとしては完全に読まれて敗北したのだから、素直に喜ぶことはできないだろうが。
「けど、僕の素性は騎士だと分かったことに直接的に関係してないよね。どうやって確定させたのかな?」
「直接的には関係してないが、きっかけにはなるだろ?ブルーだと仮定すれば、『騎士』じゃ無いことには違和感がある。疑うきっかけとしては十分だ」
「はは、なるほどね。僕はどのMMORPGでも騎士ロールプレイをしているからね」
仮にブルーじゃなかったとしても、疑い得だ。
「初対面で、会話してすぐ分かったんですか....?」
と、小豆髪が。
「そりゃあもう、念入りにリサーチしたからな。特にブルーみてーな有名インフルエンサー連中は、ぱっと会話しただけでだいたい分かるだろうよ」
目を充血しながら情報をかき集めた甲斐があったというものだ。
俺はさらに、1拍置いて説明を始める。
「で、確定させた方法の種明かしだが、俺はなにげない質問に見せかけて、正体を確定させるための布石を幾つか打った」
ブルーが思考を巡らせるように指をこめかみに当てる。
「『どこか店に寄ってきたか』と........『ポーションは持っているか』この2つの質問かな」
「ああ。この2つで、あんたが騎士だと確定できた」
皆目見当もつかないというように、ブルーが目を細める。
ただ、これに関しては分からなくて当然だ。
「悪いな。ポーションが初期アイテムとして貰えるのは、騎士だけなんだ」
軽く笑ってみせると、そうか。とブルーが眉間にシワを寄せた。
「……なるほど。僕が店でポーションを買ったりしてない限り、それだけで騎士だと確定できるのか」
『ポーションを店から買っていないのに持っている』という時点で、騎士以外あり得ない。
この情報は勿論、多くのプレイヤーを『スリ』していく過程で分かったことだ。挨拶するときにご丁寧に自分が『騎士』だ『蛮族』だと教えてくれるプレイヤーのお陰で、それぞれ初期アイテムに差があることを知れた。
「初期アイテムについては、たまたま騎士の知り合いから聞いてな」
取り敢えず、ブルーには適当なウソで誤魔化しておこう。
「......へえ。それは、良い知り合いを持ったね」
皮肉めいた口調でブルーが返す。
こんな適当な嘘を真っ直ぐ信じるとは思ってはいないが。
「じゃ、種明かしもしてスッキリしたし、もう言うことは無いよな?」
「うん。もうスッキリしたし、もう一思いにやってほしいね」
ブルーがそう言う。
そのまま武器を取ろうとインベントリに手を向けた俺は、手を止める。
「いや待て.....今どれくらいHPが減ってるか教えてくれないか?」
「……まだ情報戦は終わっていないのかな?」
「いや、単に片手を切り落としたダメージがどれくらいなのか気になっただけだ」
お互いの考えを探るように数秒間視線を合わせたところで、俺の視線に参ったと言わんばかりに、ブルーが話す。
「はは、分かったよ。こっちも丁寧に教えてもらったからね。お釣りとして教えてあげるよ。
僕のHPは.........約8割だ。切り落とされた瞬間が9割だったかな。多分そこから出血したことでじわじわと削られてるようだね」
確かに、直接的に赤い液体が垂れている訳では無いが、出血表現として光るエフェクトが傷口から漏れ出している。丁寧に詳細まで教えてくれたことは、エンターテイナーとしてだろうか。
負けて、ネタバラシもされたうえで小さなやり返しとしてウソをつく....というのは、配信者ブルーとしての矜持にかかわる問題だろうからな。
そういう側面から見ても、ウソはつけないだろうという俺の思惑だ。
「後で確かめて、嘘だったら文句でもいいに来なよ」
「ああ。情報提供ありがとうな」
俺はインベントリから弓矢を取り出し、弦を引いた。
「必ずリベンジする。気長に待っていなよ」
指を離すと同時、
ブルーの脳天に1本の矢が立った。
そして、金髪の男の姿は光る塵になって雲散霧消していった。




