4 心理戦
「はぁぁぁああっ?!何言ってるんですか!私は関係ないです!!」
「つべこべ言ってねえで入ってこい!」
「いやですけどっ!?あと.....そ、それはなんなんですかっ...?!」
小豆髪がビシィッっと指をさしてくる。
「ああ、お前もつけておいたほうが良いぞ」
指さしてきたのは、俺の頭に装着されている一枚の布切れ───変装用のパンツのことだろう。
逃げている最中に民家から掻っ払って来たものだ。
「ほら、もう一枚ある」
ぴろーんと見せびらかすと、一歩後ろに身を引かれる。
「いりませんっ....!仲間だと思われるのも最悪ですっ!」
「そうか。人相がバレても知らねえぞ!」
慌てる店内外を尻目に、俺は高価そうなものを片っ端からインベントリに入れていく。
ここは道具を扱う店のようで、様々な物が棚に陳列されている。
「さ、さっさと私から奪った物を返してください!」
「あー.......あれな。いいぞ」
「えっ?!」
あっさりと奪った直剣を放り投げると、小豆色髪の女は意味がわからないという顔をした。
「それと、ほれっ!俺だけじゃインベントリに入んないんでな」
「ちょ、ちょっと?!」
続けて店内から武器や防具なんかも放り投げる。
「わ、私は強盗じゃないです!」
「んんー?お前まさか……さっきは蛮族が騎士がどうとか言っておいて、まさかびびってるとかじゃないよな?」
「なっ……?!」
「蛮族なら、こんなチャンス逃すわけないだろ?」
俺は追撃とばかりにニイと笑ってみせた。
「いや......!」
あれ......?思ったよりも効いてる?
小豆髪が予想以上に苦しい表情をしていて、思わず苦笑いが漏れる。
…….ひとまず、そろそろ立ち去るとするか。
「よし……潮時だ!引き上げるぞ!」
街の中じゃ、悠長に物色してる暇はない。
もうすぐそこまで騎士が来てる筈だ。
騎士がプレイヤーのみで経験不足の可能性もあるが、一旦は様子見で早めに切り上げよう。
「えっ?!あ、待っ.........」
背中をぽんと叩く。
「なに大事に抱えてんだ。さっさとインベントリに入れろ!」
「なんで一緒に逃げる流れになってるんですか……!」
「いいのか?このままじゃ2人とも捕まるぞ!」
そう言うと女は眉を顔への字に曲げて、真っ直ぐ俺の前に出た。
「とっ....とりあえず、逃げ切る為ですからね……!」
コイツ、負けず嫌いだ。
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「……ふぅ、もう大丈夫だろ。上手くいったな!」
強盗から数分後。
俺は人気の薄い通りの脇に腰を下ろす。
騎士に通報されてすぐに店を飛び出したのだから、騎士にも見つかってない。ひとまずは逃げきれたはずだ。
「そうですね。でも、あなたは身の安全を心配した方がいいかもしれませんよ?」
「あー待て待て!俺が悪かった!」
怖い笑顔でゆっくりと迫ってくる女に、俺は間髪入れず謝罪する。
「......はぁ、なんでこの流れで仲間みたいな顔してるんですか」
「そりゃあ、仲間にしたいと思ったからさ」
「えっ....?!」
驚く声が上がり、数秒間の沈黙が訪れた。
「い、意味がわからないです!仲間になるわけ.....」
「疑ってるのか?俺は本気だぞ」
「いや......」
女が口籠る。
盗んだ直剣をすぐに返したことからも、俺が貶めようとしたわけではないことに気づいたんだろう。
ただ、好き放題振り回されてこのまま仲間になるのはどうなのか.....というふうに考えているのかもしれない。
「まずっ!それを外してください!」
指差す方向は、俺の頭の......布切れ。
ああ、ただ変態を見て微妙な顔をしてただけだったか。
「......そうだよな」
俺は変装用のパンツを剥がす。
すると突然、背後から、カツンと足音が響いた。
「いやあ、さっきの見ていたよ。是非僕も仲間に入れてほしいなあ」
───ぬるりと、路地の影から金髪の男が入ってきた。
「......誰ですか、あなたは」
「僕はしがない蛮族さ。君たちが早速店を襲っているところをたまたま見つけてね。凄いテンポだよね。僕も最前線で攻略していきたい、なんて思ったんだ」
爽やかな好青年。ただ.....なーんか臭うなあ。
自分と同じ悪ーいこと考えてる匂いがな。
「仲間、ね。......とりあえず、ちょっと話をしてから考えようか」
「うん。そうだよね」
青年がニコリと笑った。
「そうだな。ここに来る前に、どっか店とかに寄ったりしたか?」
「いいや?どうしてだい?」
「どういう風にプレイするタイプなのか。とかわかるだろ?あと、また襲うために周辺の商店の場所を知っておきたくてな」
「ああ......それなら僕は、まだどこにも行ってないね」
男はサッパリという手振りをする。
「そうか」
「あとそうだ....悪い。ポーション残ってないか?さっき逃げている最中にダメージを受けちまってな」
「ポーション?それくらいならお安い御用さ。でも、渡すならちゃんとチームに入れてくれるかな?」
「勿論だ。貰ったらそれで信用とする」
そう言うと、男はコクリと頷いた。
男が腰巾着.....インベントリから真っ赤な液体の入ったビンを取り出し、俺に差し出した。
「ほら、どうぞ」
「おお.......助かるよ」
ポーションを受け取ろうとする、フリをして───────。
「ありがとな.........『騎士』さんっ」
俺は隠し持った短剣で、男の手首を刈り取った。
「え..............?」
スッ.....と、微かな音を立ててポーションを持った手が落下する。
男の呆けた声と同時に、ガラス瓶の割れる音が鳴り響いた。




