26 本部の奥へ
「か……勝ったぁ......シナナキも無事で良かったです。それ、腕は持っていかれたみたいですけど」
第一関節から先を切断され、光の漏出──出血を止めるために布を巻いている。
それと、音を立てないために装備を着ずにずっと裸だったが、今は装備を着ている。
「ああ、これくらいで済んで良かったけどな」
激戦に次ぐ激戦。
溢れ出るアドレナリンと鳴り止まない心臓の鼓動に頭がおかしくなる。
今すぐにでも床にへたり込みたいところだが、そうはいかない。
「うおおおおおお、急げ急げ!」
「わっ、わかったので!手を離してください!」
塵が出す淡い光の傍で、つい安堵して佇んでいたアマヤを引っ張り上げる。
1分も、1秒も無駄にしている暇は無い!
「いや.................」
待て、冷静に考えろ。2人で行ったとして帰るタイミングはどうする。
外で誰かが見張っていないと完全なギャンブルになるだろう。
「慌てんなよアマヤ、欲張らずに一人は見張ったほうがいい」
「いや、慌ててたのはシナナキですよ?」
二人でアイテムを限界まで取ろうだなんて、欲張るもんじゃない。
「この先は俺一人で行く。本部の入口で見張りをしててくれ。なんかあったら即通信で」
「わかりました。騎士がもどってきそうなら直ぐ言います」
それに頷いて俺は本部の奥へと走る。
俺達は騎士団本部にいる敵を全て倒した。もしかすると、いや、もしかしなくとも。
この先にはお宝が待っている可能性が高い。
通路を抜けてまっすぐ進むとようやく光が見えた。
道が多い上に、どんどん奥へと進んでいく。いやな感じだ。
階段を下りて、長い通路を駆ける。
「鬼が出るか蛇が出るか。もう戦闘してる時間はねえから頼むぞ、何も起こってくれるなよ」
少し開けた空間に出た。
円形状に広がった空間には、いくつかの受付のような窓口が設置されていて、それこそ、いかにも支給品を受け取ったりという場所のようだ。
手に滾る汗と、未だにうるさく拍動する心臓を煩わしく思いつつ、冷静さを保とうとする。
受付の奥には闘技場とは違い、ロボットが配置されていた。
ロボットと言えばコレという見た目の、幾何学的で、無機質な、デフォルメした人間のような外見。
それが各受付からぐるっとこちらを見渡していて。
「ん.......?」
ビィィン────!
突然、ロボットたちの目から真っ赤な光が飛び出した。
「あれ、なんか嫌な予感が........っ?!」
しかし、そんな予感は、こんな良からぬ雰囲気とは反対に。
意外にも俺にとっていい方に外れたのだった。
「ピピ.......キシダンホンブ、ザンソンキシ、ゼロメイ」
「へ.................?」
ロボットたちが一斉に向けてきた腕に、なにかレーザービームでも発射されると思った俺だったが。
その腕から出てきたのは、レーザービームなんかとは全く正反対のものだった。
「オメデトウゴザイマス!」
ぱぁっ!と、少ないピクセルで描画されたロボットの顔が、花が咲いたような笑顔に変わった。
赤い警戒色ではなく、優しい緑の光に変わって。
そして本当に、その腕から大輪の花束が飛び出したのだった。
「プレイヤーネーム─────シナナキ、サン!キシダンホンブコウリャク、オミゴト!!!」
ロボットたちの口から、機械音の歓声が上がった。
舞う花びらの祝福の中。
やり遂げたという達成感と共に感じるのは、
「.....スーパースタートダッシュ、やっちまった?」
本来倒せない敵をとんでもない裏ワザで倒してしまったというか。
まだ入れないはずの進入禁止エリアに、ほんの出来心で入ろうとしたら入れてしまったというような。
そんな気分だった。
………いや実際、それに近いことが起こってしまったということだ。
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本部周囲の少し高い建物の屋根の上から、アマヤは鋭い眼で周囲を偵察をしていた。
「遅いですね.....」
ソワソワと、緊張を隠しきれない様子を見せる。
そこで、大通りの向こうの方から、見知った装備を着た集団が現れた。
「あれはっ!」
間髪あけずアマヤは通信を始める。
通信をしている間は魔力を消費するということで、見つけるまでは通信を切っていたのだ。
『シナナキ!もう騎士団が来ています!ここからだと......あと3、40秒もあれば着きそうです!』
『…あ、ああ!わかった!今直ぐ戻る!』
僅かな間を開けてシナナキが返事をする。
成果は───と聞こうとしたところで、アマヤは今自分がやるべきことを考える。
成果など後で聞けばいい、心配はいらない。
今はできる限り、成功させるために集中するだけ。
アマヤは弓を装備し、できるだけ騎士団の到着を遅らせることに決めた。
「できるだけ早くしてください........」
矢を放つアマヤの存在に、騎士団が気づく。少しだけ足を止めるも、騎士たちはすぐさまアマヤの方へ向かって走ってくる。一発、二発と矢が命中するも、騎士団は止まらない。もはや一人などの人数でどうにかすることはできない。
それほどの大群が押し寄せている。
できるだけ時間を稼ごうとしたが、大した妨害にはならなかった。
『もうすぐ入ってきます!』
そう伝え、本部の中へ再び戻った瞬間。
「アマヤ!」
「シナナキ.....良かった!早く!もうそこまで来てますよ!」
お互いに顔を見合わせて軽く安堵する。
「お楽しみは後でだ!早く逃げるぞ!」
奥から顔を出したシナナキは、大きく振りかぶって何かを放り投げた。
アマヤは咄嗟に手を伸ばしそれをキャッチする。
「煙幕の魔道具だ!俺はもう魔力が殆どない!頼む」
「わかりました!」
馴染み深い球状の魔道具。
アマヤは直ぐに魔道具の窪みに指を押し当て、起動させる。
煙幕を広げ、二人はシナナキによって割れたガラス窓へと走った。




