25 勃発
蛮族団『寄る辺の灯火』が結成してから約三十分もの時間が経った。
メンバーたちの仲も次第に深まり、すでに仲間同士で狩りをしたり、蛮族団らしくなってきている一団。そんな最中、出鼻を挫くように不穏な影が差し掛かっていた。
「ま、まただ....金太郎さん」
焦り、くたびれたように話す男に、金太郎──寄る辺の灯火のリーダーが視線を向ける。
「はぁ....また?」
“また”の内容を瞬時に察することが出来てしまった金太郎は、小さくため息をつく。
かれこれ30分、結成して直ぐから今に至るまで、『寄る辺の灯火』はローブを被った素性の知れない男に何度も襲われていた。
「“野太い声に似合わぬ小柄”で“大きな黒いローブ”を纏い、顔は未だに分からない。やっぱり、同じ人物のようですね......」
かならずチームメンバーが一人になっているところを狙って、正体を隠しながら暗殺をしてくる。
「襲われた人は.....大丈夫か?」
「ええと、今回被害にあったのはまたリージャさんですね」
「そうか.....彼女は慣れていなくて、標的になりやすいかもしれない。必ず誰かを付きっきりにするようにしたほうが良いな」
ローブの男はモンスターを狩ったり、採取採掘を行っている最中に奇襲してくる。反撃が難しく、費やした労力をあっさりと奪われてしまうので、メンタルにも大きなダメージがかかるだろう。
「なぜ毎回.....ウチを狙うんだ....?」
頭を悩ませ眉間にシワを寄せる金太郎に。
再び、慌ただしい足音とともに声がかかる。
「大変だ!金太郎さん!ほかの蛮族団が大群こしらえて攻めてきてる!」
「なんだい大群って。狙うならもっと弱小だろうに?」
焦りを隠しきれない様子で報告する男に、同じくしてちょうど帰ってきたメルデラが表情を変える。
「......へえ。早速、ね」
少し考えるように顎に指を当てて、リーダーの金太郎は立ち上がった。
「序盤とはいえ.....しょうもない小銭稼ぎばっかりで飽きてたとこだし。例の正体不明のヤツのせいで鬱憤も溜まってた」
「ハハッ!確かにねえ、ここらで一丁かましておこうじゃないの」
俺達の力を証明してみるか。
そう言って、金太郎は旧結成会場──現拠点を抜け出して、ちょうど日が暮れた外へと顔を出した。
外を見ると確かに、暗く視界は悪いが、ぼんやりとこちらへ向かってくる松明の明かりの中に、人影が現れてきた。
「6、7......9人は居るな」
「あの数でウチに攻めてくるなんて、どんな連中だい」
寄る辺の灯火と比べると、多少少ない人数になる。
こちらの人数も把握せず攻めてくるとは考えにくい上、この暗い夜に奇襲でもなく攻めてきたわけだ。
妙な違和感に神妙な顔をしつつも、金太郎は通信を使いメンバー全員に状況を伝える。間もなくして、金太郎の前に9人もの蛮族が並んだ。
「えーと、君は金太郎クン...だよねっ?」
ピンクのメッシュが入った長い黒髪の、リーダーらしき女が立ち止まり、金太郎の何の変哲もないアバターを前かがみで覗き込む。
「絶対そうだよねっ!当たってる?」
ハツラツに声を上げる彼女に、金太郎は思い当たるフシがあるように目を細めた。
特徴がない黒髪黒目中肉中背の金太郎のとは反対の、派手な格好の女。
「……そういうあなたは、ユーミーさんかな。戦争するのはいいけど、後悔することになるかもよ?」
ユーミー。
どんなゲームでもパンクロックじみた奇抜なキャラクター、あるいは格好をしている強豪プレイヤー。
格好のとおりプレイも豪快奇抜。意表をつくという点でシナナキなどと比べられることもあるが、彼女は彼女で唯一無二。腕を掴まれたらその腕を切り落として反撃する......というような方向性の奇抜さだ。
「知ってる人と出会えて嬉しいんだけど、でもこっちもやられてるからね!容赦しないよ!」
「............なに?」
「じゃ、もういくよっ?」
威勢の良い笑顔を見せるユーミー。
ユーミーの言葉に違和感を感じ取った金太郎は、今にも襲いかかってきそうな彼女を止めんと口を開く。
「.......待て!」
「え、なに?金太郎クン?あ、ちょっと!」
素直に動きを止めたユーミーから視線を外して、金太郎は背後を振り向く。
そしてさっき報告をしてきた男に視線を合わせた。
「えっと....ユーミーさんがこっちもやられてるって言ってたけど。......なにかあったのかな?」
「いや……!むしろ、さっき仲間のひとりが急に奇襲されたん──」
「ちょっとちょっと、そこの人!違うよっ?」
金太郎の会話に割って、ユーミーが入ってくる。
「いきなり襲って来たのは君たちでしょ!しかも私達が拠点を作ってるとこに。全部台無しにされたからね!こっちが君たちの拠点を奪っちゃおうって作戦だよ!」
丁寧に説明し、その上良い作戦だろうとドヤ顔を見せるユーミーに、呆れたようにため息をつくメルデラ。
「.........アンタ、律儀だね。けど、それをやってのがウチって証拠はどこにあんだい」
「うん?普通に『俺等は寄る辺の灯火だ覚えとけよ、コラ』.....みたいなことを言ってたから。“野太い”声でね!」
「はぁっ?!ウソだろう!そんなチンピラじみたやつに心当たりは無いんだけどね?!」
しかしメルデラや金太郎にしては全く身に覚えのない話であって、指示も出してなければ報告も聞いていない。
つまるところ、寄る辺の灯火にとっては眉をしかめざるをえない状況ということになる。
「チッ......やっぱり.....か。クソ、どうする......?」
周りに聞こえない程度の金太郎の小言。
普段無表情な彼の言葉には少なからず苛立ちが含まれていた。
「話は終わり?じゃあ....」
「いや、待ってくれ.....一旦話し合わないか......?」
「えー?そんなこと言われても…」
そこで、二陣営の交渉を切り裂くように。
「ぇっ.........?!」
「ユーミー......!?」
矢が突き刺さった。
開戦の合図とも言わんばかりに、ユーミーの腹部に一本の矢が。
「ユーミーさんっ...?!!」
「あいつらッ……やりやがったぞ!!!話し合いと見せかけて奇襲しやがった!!!」
「やっぱりだ!!」
「おおおお攻め込むぞおお!!!」
ユーミーの仲間の雄叫びが上がる。
「おい今撃ったのは誰だいっ?!」
「───もういい、メルデラ。やるしかないみたいだ」
うーん、こりゃ嵌められたなあ......。
そんな金太郎のつぶやきは、けたたましい怒声の中へ消えていった。




