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24 暗闇

「これはっ....!」


暗闇。シナナキが照明を破壊しきった瞬間、世界は深い闇に包まれた。わずかに響くのは、そばにいる仲間の呼吸音のみ。ギャーベッツは直ぐに3人用の無線通信を開始する。

ゲームの仕様として通信中は魔力を使うので常時会話することはできないが、このような場面では重宝する。


『た、松明を.....!』

『わかった.....奥に投げてくれれば俺が突っ込む』


どこかで手に入れたのか、はたまた制作したのか。

松明を持っているとスイレンがインベントリを開く。そしてそれに返事をするゼルディオ。しかし、ギャーベッツがそこで気づく。


『いや──やめろ!!』


ギャーベッツ、スイレン、ゼルディオの三人は遠距離武器を持っていない。

ここで明りを灯せば、相手からの反撃を受ける可能性があると気づいたのだ。

小声でスイレンを止めようとするギャーベッツだったが、遅かった。


『えっ......?!』


松明の明かりが周囲の闇を晴らす。

だが、それは一瞬に過ぎなかった。


『横っ?!』


スイレンは“音もなく”現れた、気色の悪い笑みを浮かべる裸の人影に、対応する暇すらなく。

──松明の灯火と、自身の喉元への刹那の二撃を許してしまった。


『スイレン!』


松明が破壊され、再び暗闇が訪れる。

熟練のゲーマーとしての勘からか、極限の警戒を張り巡らせていたギャーベッツは、奇襲を受けたスイレンの肩を掴み背後へと引き剥がした。

同時にスイレンを攻撃した影への反撃を試みたが、それは空を切った。そして、そこでギャーベッツの耳に鋭い飛翔音が入った。……矢だ。


『矢が飛んできてる!物音がした方向に決め打ちしてるっぽいな......!』

『.......ぅっ!』


僅かなうめき声の主はスイレンだ。

暗闇から奇襲した方とは別の、二人目の蛮族が音を頼りに援護射撃を放ち、運悪くそれをスイレンが受けた。直前に急所へ攻撃を受けていたこともあって、もう耐えきれそうになかった。


『離れて.......光がっ!』


スイレンの最後の言葉の意味を、ギャーベッツとゼルディオは瞬時に理解する。

“プレイヤーが倒されたときに出るエフェクト”が。

つまり光る塵によって付近だけが露わになる可能性があると。それを聞き二人は直ぐに、スイレンの倒れた位置から後方へと飛ぶように避けた。


『やべぇ.....確かに光は避けられたけどよ.....矢がめちゃくちゃ飛んできてんぞ!』

『まずいなっ......!傷を受けると光が漏れる!傷口は直ぐに塞いだほうが良いみたいだよ....!』


無数に飛んでくる矢。厚い鎧を着たゼルディオはともかく、ギャーベッツは無傷とは行かない。それに、音もなく近づいて奇襲してくるのにも警戒しなければいけない。


『どうする…?!俺のスキルもここじゃあ役に立たない…!』


と、ゼルディオ。たしかにゼルディオの職業である『ランサー』のスキル、『回転薙ぎ』はこの狭い一本道じゃ使いにくいだろう。


『追加の援軍は全部街の外だからなぁ。シナナキらも気長にはいられねえと思うけどよ』


街に配置された腕に自信のあるプレイヤーはここに来たギャーベッツ、スイレン、ゼルディオの3人だけだった。シナナキたちが本部を攻めていることは騎士内に知れ渡っているが、街の外から駆けつけるのに今からでも数分はかかるだろう。


『一応俺はいちばん固い鎧だから、矢はあんまり効かないみたいだけど…』


無線でゼルディオがそう伝えた瞬間。


『後ろっ……?!』


ゼルディオは自身の鎧に何かが触れたことに気づく。咄嗟に背後に向かって槍を突くゼルディオ。しかし、それが失敗だった。


『大丈夫かゼルディオっ!』

『槍、をっ…?!』


後ろへ伸ばしたゼルディオの槍は、いとも容易く掴まれた。そして──ゼルディオは振り向いた“後ろ”側へと、思い切り引っ張られる。


『これは…!ギャーベ…!』


慌てて状況を報告しようするも、暗闇の中で判断が鈍り、伝えるのが遅くなってしまった。

“だから”、次の瞬間。

ガキィィン…と、甲高い金属音が響いた。


ギャーベッツは、ゼルディオの報告通り、音のした1、2m後ろ当たりに向かって大きく斧の一撃を振るった。


『ギャーベッツ…ごめん。俺…』

『ウソだろ…?!いや、まさか!?』


最後の言葉を遺すことも出来ず、ゼルディオは淡い光と共に塵へと変わっていった。


そこでギャーベッツの脳裏に最悪の想像が浮かぶ。

──自分がゼルディオを倒してしまった可能性を。


ゼルディオの想像通り、ギャーベッツの一撃はゼルディオに直撃した。ゼルディオは後ろへ突いた槍を掴まれ引っ張られたことで、『後ろに敵がいる』と言った本人がその位置に来てしまったのだ。


勿論それだけでは堅牢な鎧を着るギャーベッツに対し致命打にはならなかったが、その隙に暗闇から追撃を受けたことにより体力が尽きた。


『考えるのは辞めだ!今は集中!』


動揺を振り払って、己を鼓舞するギャーベッツ。


『援軍が来るまでの時間は稼げねえ。無音で近寄ってくる方…多分シナナキの野郎は、今までのやり取りで暗闇ん中でもあらかた位置を把握してんだろうな。逆にこっちはいつ来るかどこから来るか分かりゃあしねえよ.....あの、音もなく近寄ってくるスキルのせいでな.....!』


しかし、とギャーベッツは考える。


『こっちにもスキルがある。俺のスキルなら…一撃で粉砕してやれんこともねえんじゃねえか…?』


覚悟を決め、ギャーベッツは暗闇の中で一人、瞼を閉じて神経を研ぎ澄ませた。

指先すら微塵も動かさない。ただ両の手で確りと大斧を握り、その時を待つ──。


『!!』


極限の集中の中で、身体に何かが触れた。

だがギャーベッツは動かない。

さっきもそうだった…シナナキは暗闇で奇襲する際、相手に僅かに触れることで気配を知らせる。

そして暗闇の中で咄嗟に攻撃を返そうとする相手の隙を、確実に突くという戦法。


『それには引っかからねえぞ。シナナキさんよ.....いんや──』


少し触れただけで、やはり深くは仕掛けてはこなそうだった。

だから逆に、とギャーベッツは考える。


『ちょっくら、真似事でもしてみっか?』


ふっ…と、武器を持っていない方の手で風切り音を立てて、ギャーベッツは武器を振ったフリをした。

シナナキと同じ、相手の行動を釣るという戦術。


『…来た。』


案の定、身体に刃が食い込む感触。

シナナキが釣れた。こっちが隙を晒したと思って深くまで入った。それを確認して。


逆上(ぎゃくじょう)───!!!』


肉を切らせて骨を断つ。

ギャーベッツの職業である『バーサーカー』のスキル『逆上』が決まった。相手から直前にダメージを受けていると威力が跳ね上がる渾身の技。


『決まったぜ…!…けど、こりゃあ──浅い?!』


というより、当たった感触が胴体を両断したような厚みではなかった。

そこで、ギャーベッツの耳にカランと地面に何かが落ちる金属音が入った。


『武器の音?腕かっ....!』


光の粒子が斧の先から線上に散らばったことからも、何かを切り裂いたことは確実。

ぎゃーベッツはシナナキの腕を切り落としたことで、腕と、持っていた武器が地面に落ちた音だと判断する。振り切った大斧を持ち上げ、再び体勢を直そうとするギャーベッツだが。


『おぉっ?!』


ギャーベッツが斧を握る小さな音を捉えたか、その手を“押しこむ”ように再びシナナキの攻撃が迫った。確かに渾身の一撃は決まった。だからこそ、そこから間髪入れずに反撃の刃が向いてきたことに、ギャーベッツは僅かな動揺を見せる。


『反対の手でかっ.....早すぎんだろがっ!』


腕を切られた瞬間に、シナナキは反対の手へインベントリから瞬時に武器を取り出したんだろう。


『つか体勢が.....!』


重厚な斧を持ち上げようとした瞬間だったこともあり、斧を持つ手を刃で押し込まれたギャーベッツは、後ろへと一歩体重を落とす。


「アマヤ!」

『マズイ....!今の一歩で!』


体勢を崩したことで生まれたぎゃーベッツの一歩。

その音と、その直後にシナナキが上げた声。

2つの音の位置から、ギャーベッツの位置が正確に割り出された。

そこで待ちに待ったとばかりに、ギャーベッツの背後から。地面を踏みしめる音とともに、風切り音。

『踏み込み斬り』が──。


『これはっ、間に合わねぇっ......!!』


『逆上』にも勝らずとも劣らないアマヤの渾身の一撃が、ギャーベッツの脳天へ炸裂する。


「がっ.............あー......ぁあ。こんな集まって......情けねぇったら、ありゃしねえな」


戦いが終わった。

無防備にも床に大の字に転がったギャーベッツは、口を開いた。


「なんだ、遺言か?」


シナナキも声を出す。


「次は絶対に勝つ......そんだけ言いたかったからよ」

「前にも聞いたぞ。ブルーと同じセリフじゃねえか」


シナナキの言葉にギャーベッツはやんわりと光る塵の中。

悔しげな笑みを浮かべつつ、消えていった。

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