23 大連戦
「おいおいっ!なんだ今の音!どうしたんだぁっマグ姉ー!」
元気な青年の声に続いて。
「だっ、大丈夫ですかぁっ.......?!」
「どうしたんだっ?!」
大人しめな女性の声と、動揺する男性の声が扉の奥から響いた。
男女3人もの騎士たちが、本部の扉をくぐって来た。
「おっと、少し遅かったみたいだな。お前らの大将はくたばっちまったみたいだぞ?」
先頭で入ってきた大きな剣を持つ茶髪の青年が、目を見開いて動揺する。
「はぁっ?!ブルー!やられたのか?!」
「嘘.....?!マグちゃんも.....?」
本部の静まり返ったロビーの中には、俺とアマヤの二人だけ。
ブルーとマグカップが、騎士団の主力である2人がやられた。
その現状を理解した騎士たちは、その顔を歪めた。
「てめえがシナナキだな!」
短髪の青年が吠える。
「わざわざ騎士団本部に何しに来たんだ!こんなところ来ても騎士が沢山いるだけだってのによ!」
確かに、騎士が少ないとしても普通なら街中にある商店に行くだろう。
けど当然、俺達は知っている。
「誤魔化してるつもりか?」
本部内の特別な売店の存在。
確かめるならこのタイミングだろ。
「クソ.......やっぱりバレてんのかよ。こりゃあ確実にどっかから情報が漏れてんな」
そこはもう割り切ったのか。
茶髪の言葉で行く価値はあると証明された。こんな早くからもうバレてしまったことに、茶髪はやれやれという仕草をする。そこで、
「っ.......!」
.......なんだ?俺と茶髪の一連のやり取りの後。
ギャーベッツの言葉に妙に苦しそうな表情をしたのは、後ろの方にいるもう一人の男。
「お?どうしたんだゼルディオ!もしかしてヤツの魔法かっ!?」
「だっ......大丈夫っ?ゼルディオ君!」
勿論俺達は何もしていない。
腹でも壊したかってくらいに顔を歪めるゼルディオと呼ばれる男に、二人の騎士が駆け寄る。
オイ.....アイツまさか。
(あ......あの人じゃないですか?もしかして)
耳元で囁くアマヤに、小さく頷く。
俺は確かめるように口を開いた。
「“キャラメル色の髪”」
「ふッ?!」
「“小柄な女”」
「ぃぎっ?!」
「“トラップ”」
「へぅッ?!」
あからさますぎるだろ?!
やっぱりコイツじゃねえかっ!まんまとミルクの毒牙にかかった男は!
「お前…」
いやっ…….コイツは被害者だ…ミルクの甘い蜜に釣られてしまった哀れな男なんだ。
「なっ、なんだよ…?!」
取り乱した様子で俺に眼光を飛ばすゼルディオ。
「辛かったよなあ、俺はお前の痛みが分かるよ」
「ヤメロオオオ!!敵のくせに俺に寄り添うなあああ!!」
寄り添うようにみせかけた煽りをしてみると、想像以上にトラウマだったのか、ゼルディオはついに発狂し始めた。
「だっ大丈夫かよゼルディオ?!」
「ゼルディオ君っ?!」
心配する2人には構わず、ゼルディオは我を忘れ獣のように走り出した。
「うアアアあッ!!もうッ!俺は蛮族を許さない!!!」
「よっしゃゼルディオ!突撃だな!」
「わわ…分かりましたっ!」
なりふり構わず突撃してきたゼルディオに続き、二人の騎士も同じように走り出した。
3対2、例によって分断作戦をせざるを得ない状況。俺はすぐに煙幕の魔道具を手に取って発動しようとして──気づく。
(しまった…!もう魔石切れか!)
ここに来る前の戦闘で手に入れた魔石は殆ど使ってしまった。最後のひとつだったことは知っていたが、さっきの煙幕で全て消費しきってしまったのか…!自分の魔力で起動することもできるが、その使い方はあまり強くない。
「悪いアマヤ、煙幕が切れた」
「なっ......じゃあ──」
しかしそんな状況だが。
俺はアマヤの腕を掴んで本部の更に奥の方へと引き寄せた。
「このまま中に進むぞ」
そう言うと、アマヤは少し動揺を見せたが、すぐに冷静な表情を取り戻した。
俺になにか考えがあると信じてくれたのだ。
「わかりました」
窓の外をちらりと見ると、少し前まで差していた光が消えていた。
ゲームが始まって約二時間。
──夜が始まったんだ。
「俺に策がある」
俺は辺りを見渡しながら、長めの武器を取り出した。
本部の奥へと進んで行く俺達の背後から、逃さず騎士たちが追ってくる。
「細長い通路。悪くない」
パリィン!と、いう音が本部内に響く。
「全部割れ!」
「明りをっ....?はい!」
魔力で光らせているのか、原理はどうでもいいが、廊下を照らす照明を全て破壊していく。
徐々に視界は闇へと変わる。
もう何も見えなくなるほどに。
「煙幕がなければ『暗闇』で奇襲すればいいだろ?」
それが俺の策だった。




