22 逃走?
「アマヤ。逃げるぞ」
「えっ......?!」
一瞬だけ動揺を見せて。
だが俺の真剣な表情を見たからか、アマヤが落ち着きを取り戻した。
「何か、考えがあるんですね」
「詳しく説明する暇はない。急げ」
すぐに煙幕の魔道具を使用。
俺達は大扉へと駆け出した。
「もう逃げるって、情けないわね?」
「流石にバレたかな」
出口へ走った俺達を追うように、マグカップとブルーが走ってくる音が耳に入る。
「......アマヤ、15秒後に大声を上げて突撃しろ。それまで適当に時間を稼いでくれ」
小声そう言い残し煙幕の中。意図は伝えず、お互いの信用にかけて。
俺とアマヤは反対方向へ駆け出した。
「いや........反転かな」
ブルーが気づき声を上げる。
様子を伺っていたブルーへ、煙から飛び出したアマヤの踏み込み切りが襲う。
「逃げるんじゃなかったのかな?アマヤ。こんな分かり易い反転に引っかかるわけ無いからね。シナナキが逃げるために、ただの時間稼ぎかな?」
「あら。アンタ、囮にされたの?」
逃げた、と思ったら単独で出てきたアマヤに対し、ブルー達は余裕とばかりに笑ってみせた。
その笑い声が、“外”にいる俺にも聞こえる。
外の様子を確認し終えた俺に。
間もなくして──15秒が経つ。
「こっちは大丈夫だ。一応シナナキが出てくる可能性も.....」
「はあああっ!!」
突然、大声を上げて駆け出したアマヤにブルーとマグカップの注意が向く。
「なに?当たって砕けろ的なあれかしらっ?」
そこで、何かに感づいたように、ブルーは俺の方を見た。
──背後の。
“音”も無く割れた大窓から入って、マグカップへ接近していた俺の方を。
「?!」
盗足というスキルの説明は、「発動中、自身の足音を消す」というテキストのみだった。
しかし、これは正確でなかった。正しくは、「足によって発生した音を消す」という効果であり、これを利用し足で窓を蹴破れば、音は出ないということになる。
「後ろ……?!」
微かな衣擦れなどから俺の気配に気づいたブルーだったが。
「戦闘中に後ろを見てはいけませんよっ!」
背後に気を取られたブルーは、アマヤの一撃を貰ってしまう。
そして、直ぐに振り返ったマグカップも、遅い。
「さっきぶりだなぁっ!」
一閃。
マグカップの装備が無い、剥き出しの二の腕を両断した。
宙を舞い、装備の付いた腕の重厚な落下音が響いた。
「なん.....でっ、後ろにいんのよ!」
マグカップから余裕の表情が崩れた。
「どうしてだろうな。アマヤ!」
「はい……ってなんで裸なんですかっ?!」
「そんなこと気にしてるヒマねえぞ!」
軽く動揺を見せるアマヤに喝を飛ばす。
大声を出して突撃しろと指示した上で、少しでも音を立てたくなかった俺は装備を脱いだ。流石に.....というか下着までは脱げないし、ブルーにはギリギリで気づかれたけどな。
ブルーを吹き飛ばしたアマヤがマグカップへ標的を切り替える。
流石に鋼鉄の処女とはいえど、片腕を無くして前後からの攻撃は──。
「これくらいで崩せると思わないことねっ!」
「はあっ.....?!」
ノールックでアマヤの背後の一撃が抑えられる。
さらに真っ直ぐ正面を攻めた俺は、同時に片足で弾き返された。
この猛獣ばりのフィジカル、バケモンかよ…!
「とはいえ、きついだろ!」
再び短剣で突撃をする、フリをして、マグカップの間合いの外に出る。
「ウザいっ!!」
それだけで、マグカップの集中が分散しアマヤの攻撃に防戦一方になる。
そして、
「シナナキッ....!」
アマヤが俺の背後を見て、警戒の声を飛ばした。
「ああ、ちゃんと見てるぞ……“ブルー”!」
状況確認も欠かしてはいけない。
背後から狙っていた、微塵の体力で踏みとどまり起き上がっていたブルーへと視線を向ける。
「気づいていたか......!」
光弾の魔法を飛ばしてくるのを確認し、身体を反らして避ける。
同時に、一気に距離を詰めた俺の一撃がブルーの心臓を貫いた。
「悪い、マグカップ。食らい過ぎたみたいだ........!」
不意打ちでアマヤから受けた大ダメージが積み重なって、ブルーの装備ではもう耐えきれない。
「はぁ.........アンタたち、なんで逃げなかったのよ!もう気づいてるんでしょ?」
「あんなに怒りをむき出しにしておいて、まさか時間稼ぎとはなあ。マグカップさんよ」
「シナナキぃ.....!」
俺の言葉に、そこでアマヤの方もやっと現状を理解したようだ。
「だから.....さっき....!」
そう。俺は援軍が来ると気づいて逃げた。そして、うまく行けば逆にそれを利用できると考えた。
外に出て援軍が近くまで来ていないことさえ確認できれば、一瞬で背後に回って決着ができるだろうと。
「始めの会話で援軍はないと思わせて、ブルーが出てくる直前に既に呼んでいたんだろ」
「なら、なんで逃げなかったのかって聞いてるのよ!」
「何度も言ってるだろ。戦う前に言った通りだ」
俺の言っている意味に気づいたのか、マグカップから鋭い視線が飛んできた。
.....勝ち目があったら逃げはしない。つまりそういうことだ。
「.........笑わせてくれるわっ!」
「おお、噂をすれば来たみたいだ。アマヤ!扉から離れとけ!」
そう伝えた瞬間。
ギィ.....と、閉じていた大扉が開き光が差し込んでくる。ブルーとマグカップの思惑通り、援軍が到着したわけだ。
「おらあ吹っ飛びやがれぇいっ!!!」
ハハ!こんなこともあろうかと準備しておいたのさ......第二の魔道具を!!
「ちょ───?!入ってこないでっ!!やばいからっ!」
大扉に向かって飛んでいく黒光りする球体。
それが明らかに爆発物だと気付いたマグカップが慌てて扉へ声を飛ばす。
間一髪、声が届いたか扉の動きが止まる。爆弾が扉へと到達し、黒い球体からピキリと亀裂が入る。
……….そこで、俺は瞼を下ろした。
「はッ......ぁあっ?!」
想像よりも数回り控えめな破裂音が響いた。
マグカップは目を見開き──放たれた“閃光”に驚愕の声を上げた。
「閃光弾っ.....?!」
「えっ...?!ああっ?!何も見えないです!」
同じくして、堪らず目を押さえるアマヤ。悪いな。演技の問題で無駄に勘ぐられて、マグカップにバレるかもしれないからな!
心のなかで小さく謝りつつ、大きな隙を晒したマグカップに迫る。
「ふふっ。必殺閃光玉、決まったり」
「ぐっ...!こんな初見殺しにっ.....!お、覚えておきなさいよっ!次は絶対っ....!!」
言い切る前に、俺の攻撃によってマグカップが限界に達したようだ。
塵へと変わるマグカップを尻目に、大扉へと身体を向ける。
「アマヤ、悶えてる暇はねえぞ」
「っ.....ぅあ、まだ目がしばしばするんですけど!」
再び大扉が開く。
まだまだボスラッシュは終わらない。




