21 最序盤の頂上決戦
「お前は.......」
騎士団にしては小柄で──────。
それに似合ったヒラヒラとした衣装。その中で異質な光を放つ鉄の鎧を腕と脚に装着した、
大きなピンク色のツインテールをぶら下げた幼女。
ひと目見た瞬間、俺の脳内がその人物を導き出した。
「マグカップ、てめえも騎士だったか!」
マグカップ.......俺と同じくP社のゲームを好んでプレイしているランカー。
前回のランキングでは惜しくも俺より下の順位だったが、間違いなく最高レベルの実力を持つプレイヤーの一人だ。
「待ちくたびれたわ。アンタを滅多打ちにする、この時を!」
そんなに順位で負けたのが悔しかったか。
今にもビキビキと血管が破裂しそうな勢いで、拳に思い切り力を入れてるみたいだけど。
「シナナキ.....どんなことやらかしたんです?」
「いやぁ、どんなことって..........」
まずい。心当たりが多すぎる。
前にアイツが嫌いな虫系の装備一式を使って対戦したことか......?いや、
「あー......もしかして。ランク終了日の戦いで、動揺を誘うためにした話のことか。お前がミルクの写真を──────」
「どぅああああああああああッ!!!!」
お前がミルクの写真を大事に切り取って集めてるって話を......と言おうとしたところに。
本部中を埋め尽くすようなマグカップの絶叫が響き渡った。
「はあ、ミルクのことが好きなのは分かったからよ」
「.......ふふ!!シナナキ.....よっぽど死にたいみたいね......っ!!」
「なかなかエグいことしてますね.....シナナキ」
あのときも、コンナ風に絶叫してたな。
動揺した隙をバッチリ突かせて頂いたんだった....おっと、笑うな。
「でも......写真って」
「ミルクはマグカップの弟なんだ」
「えっ、そうだったんですか.....?!」
そう。キャラメルミルクとマグカップは、名前からある程度察せるとおり実のきょうだいなのだ。
ゲームが上手い二人。そして、その姉であるマグカップは、
「つまるところ、アイツはブラコンなんだ」
「ぶっ.....ブラコン、ですか....?!」
「あっ、あんたたちっ.......!!」
訝しげに眉をひそめるアマヤに、遠目からコソコソ話の内容を察したのか。
マグカップが更に怒りの表情を深める。するとそんな様子に困ったように、マグカップの後ろから人影が現れた。
「ちょっと、そんなにウチのマグカップをいじめないでくれるかな」
青い短髪の長身。軽装備のローブを纏うこの男にはハッキリと覚えがある。
──────超人気配信者であり、活動者界随一のゲーム上手男でもある。
始まったばかりのときに返り討ちにしたことから、少なからず因縁を付けられているだろうあの男。
「ブルー。お前も流石にいるよな」
「まぁね」
「ふふん!アンタがここに来るのは読めてたのよ!」
自信げにマグカップがそう言い放った。
「.......へえ?なら二人だけじゃなくもっと人員を割きゃあ良かっただろ」
「でも、沢山いるって分かったら、アンタはすぐに逃げるでしょう?」
それはそうだ。
ハイリスク・ハイリターンっつても、限度がある。
「そりゃあ、勝ち目のない戦いなんてするかよ」
その言葉に、マグカップは挑発的な視線を送ってくる。
「でも逃げないのね?」
「ああ、宣言通りな」
─────勿論。
退散するのは勝ち目がないと分かった時。
今の状況に限って言えば、退散する必要はないだろう?と言うように。
「気分の悪いこと言ってくれるじゃないっ!」
俺の挑発にのってか、それ以前の話か。
マグカップはついに我慢ならないとばかりに、憤りを隠さない笑みを見せゆっくりと歩いてきた。
「アマヤ。アイツ─────マグカップには手を出すな。アイツはミルク以上に、防御の鬼なんだ」
とあるゲームでは──────鋼鉄の処女とかって言われてたか。
極まった鉄壁さから近寄ると逆に粉砕されるような圧力と、名前からしてメルヘンチックだから付けられたんだったか。
長期的に情報を集めて対応していくミルクとは正反対の、反応と直感ですべてをいなすスタイル。
アイツはまず2対1じゃあ崩せないと考えたほうが良い。
「わかりました」
「まずはブルーだ。マグカップは軽くいなしつつ、二人でブルーを狙うぞ」
小声でそう伝え、ブルーへとしかけに行く。
ブルーもまた、相手を分析していく対応型。こちらの攻めに対応できるなら話は別だが、2対1で攻められて対応しきれる訳が無い。
このまま削り合いをすれば、勝利は自然とこっち側に傾く。だが、その程度で終わると甘く見積もっているわけでもないが。
「僕狙いだよね」
一気に距離を詰めてきた俺に、一旦、距離を離すように後ろへとステップを取ったブルーだったが。
「──────かっ.....?!」
ガラァン。
音を立て、“俺が”投擲したものが弾けた。
「いきなり来たらビビるよな。ブルー」
「ゲホッ.....なんだっ....?!」
「鉢.....?」
飛んできた花鉢を咄嗟に防御したブルー、直撃したがダメージはない。
しかし顔面に飛び散った土や植物によって、その視界が遮られた。
「ブルー!右後ろに下がりなさい!」
「ああっ.....!」
「アマヤ、マグを抑えとけ」
「はい!」
ブルーの援護に入るよう、マグカップが直線上に割り込む。
マグカップの武器は篭手。普通ならばアマヤを抑えつつ俺を止めることはできないはずだが。
「うそっ......?!」
「シナナキ、全然甘いわよっ!」
瞬間────マグカップの拳に触れたアマヤが、その体を振る剣ごと、強烈な一撃をもらったかのようにのけぞらせる。
あれは.....スキルか....?
流れるように、ブルーの下へ回り込もうとした俺の顔面へと強烈な拳が飛んで来る。
「.......面倒くせえな.....っ!」
間一髪で俺は拳を抑え込み、その勢いを受け流すために転がるように距離を取る。
そして、
「またそれっ.....」
マグカップの反撃を受けた瞬間。
俺は咄嗟に今度はマグカップへ再び鉢を投げた。うまく防御したとしても鉢は割れ、中の土やら植物やらが飛散する。
そこに合わせるように、アマヤが距離を詰め追撃を加える。
「あんたのほうがよっぽど面倒だわ!」
土まみれになりながら、顔にはなるべくかからないようにしたマグカップ。
アマヤの一撃は防具で受けたが、少なからずダメージを受けた筈だ。
マグカップはその顔を歪めながらも、臨戦態勢を崩さない。
「街のものをアイテム化して、自由自在にインベントリから出しているのか」
「街はアイテムの宝庫だ。まあ、序盤だけの戦法だけどな」
これまでで証明している通り、“投擲”という行動は強い。
ただ、投げたら失う上に相手に取られるというリスクが有るだけで。
しかし、そのへんで適当に拾ったもの、更に鉢みたいな投げた時点で壊れるようなものはこっちにリスクが生じない。
「小細工ばっかしてないで、正々堂々戦いなさいよ!」
「アホか、真っ正面からゴリラと戦うほど俺は馬鹿じゃねえよ」
「ゴリラッ……?!」
マグカップの篭手にはち切れんばかりの力が籠る。
フィジカル最強と同じ土俵で戦うつもりは無い。ゴリラに比べれば俺は小動物に過ぎないと自覚している。
……..ただ、表情に怒りを滲ませつつも、マグカップもブルーも全く攻めてこないというのが妙だ。
もしかしなくとも、
(.....こいつら、やっぱり時間稼ぎかよ)
前の会話で援軍は無いだろうと思ったが、単純に考えればプライド以外で援軍を呼ばない理由はない。
「──────よし、逃げるぞ」
アマヤにだけ聞こえる声でそう言って、俺は煙幕の魔道具を発動した。




