19 寄る辺の灯火
シナナキたちが騎士狩りを始めた、少し後。
即席で作ったような、仮拠点にも劣る“会場”にて。総勢十八人もの蛮族が集まっていた。
「えーっと、じゃあ集まった皆には......『何の枠としてゲームに参加したか』と『名前』を教えてもらいますか。あとアピールしたいことでもあれば。そこの茶髪の女の子からどうぞ」
「あっ、えっと....一般の枠でたまたま当選しました...“クルミ”っていいます.....!精一杯頑張ります...!!」
おどおどとした雰囲気で。茶髪─────というよりかは“キャラメル色”の、短髪の少女が話す。一般参加者の不慣れな様子に、和やかな笑い声が響いた。
「うふふ、可愛いっ。私はプロゲーマー枠として参加してる八鹿。よろしくね。」
「あ、よ....よろしくお願いします....!」
微笑む八鹿に、クルミは不慣れな様子で頭を軽く下げた。
そんな流れで他の参加者たちも挨拶をしていき、各々が自分について話をしていく。ここはとある二名の名の下に集まり、新たな蛮族団を結成しようとする集まりだった。
「うーん.....一応これって面接....的な感じなんだよね。みんな良い人そうで、落とすに落とせないなあ」
しばらくして全員が話し終えたところで、困ったなあ、とリーダーである気が弱そうな男が口を開いた。
「シャッキっとしな!金太郎!最初とはいえ、変なのが入ったらたまったもんじゃ無いからね!」
親子のようなやり取りに呆れた苦笑いが起こる。ただ、この2人こそが大勢のメンバーを集めたビッグネームであることは周知の事実だ。
この蛮族団を仕切る冴えない大柄男『金太郎』。そしてその補佐をするサブリーダー的な立ち位置の、気が強い中肉中背の赤髪女『メルデラ』。寄せ集めのプレイヤーたちは様々だが、この蛮族団を仕切る二人はどちらも業界に名をはせる強豪プレイヤーだ。
「この『寄る辺の灯火』は、初心者上級者問わず歓迎するけれどね。それでもちゃんと一線を目指して活動するんだ。ほかのメンバーのためにも、しっかりと見極めてくよ!」
この段階で十八人という大人数で勢力的に活動すれば、一気にトップへのし上がれるだろう事は皆の想像に難くない。
──────だからこそ、序盤でくじけたくないというところでもある。
「いや......確かに、このゲーム性だと色々企みがありそうで怖いよなあ。とはいえここで怪しそうだからって落とすのも....そもそもこんな現実と変わりない雰囲気の中で裏切りだのなんだのって、本当にいるのかなあ...........」
人狼ゲームならばまだしも、基本的に騙し合いというものはしたがるもののほうが少ない。ルール的にはセーフだとしても、人間関係や評判を気にしてしまうというのは特に、この殆ど匿名じゃない現実のような世界では尚更だろう。
そんな考えを巡らせる金太郎に、メルデラが喝を飛ばす。
「ブツブツブツブツうっさいわ!ハッキリ話さんかい!アンタはもっと自分に自信を持ちなさいな!」
「ああ.........そうだよな、メルデラ。よしわかった.....」
意を決したように金太郎が目を開いた。
「ここにいるみんな入れよう」
真っ直ぐと言い放った金太郎に、メルデラは呆れたような表情を浮かべた。
「結局そのままなのかい!...まあいいけどさ。」
「ただし一応─────念の為ね。何処にも所属していないことを、証明してもらおうか」
金太郎の表情が一風変わる。冴えない男がただその瞬間、微かに実力者の覇気を漏らしたようだった。
「ああ、合図があるまで動かないでくれますか。ここで抜けられても困るので」
ピクリと動いた者に対し、視線は向けずに静止の掌を向ける。
「取り敢えず俺が見本を見せる....でいいか」
そう言って、金太郎は素早い手捌きで空を操り、周りに見えるようにチームの所属が分かるインターフェースを掲げた。
そこには確かに、『寄る辺の灯火』という組織のみが登録されていた。
「みんなの場合は、ここに何の組織も表示されないはずですね。じゃあ、自己紹介と同じ流れでそこの、クルミさんから見せて貰おうかな」
「あ.....は、はい....」
「この中の誰かを不審に思っているわけじゃないよ。ただ、これは全員の身を守るためだから」
小さく怯えつつも、クルミは恐る恐るUIを表示し操作をする。白であると証明するために、自分がどこの組織にも所属していないと見せる必要がある。数秒の、緊張感の混ざった沈黙の後。
「えっと......これです」
「.......」
目を細めて金太郎がUIを覗き込んだ。
「─────これは..........大丈夫みたいだね。皆も肩の力を抜いてください。この調子でどんどん進めていきます」
何も表示されないクルミの『組織』登録の欄に、金太郎は小さく微笑んで次の参加者の方へと向かっていった。
「……と、いうことで....あー、全部確認終わったかな?」
確認はすぐに終わり、安心というべきか、特に怪しいことは無かった。
「ははん、てことはこん中には『ちゃんと白いヤツ』か.........『隠れ上手な黒』しかいないってことさ。
ま、話し出したらキリがないことだねえ。ここはひとまず、お互いを信用していこうじゃないか」
疑い合っても際限がないし、雰囲気も悪くなっていくだけということを2人は理解している。
だから金太郎もメルデラも気持ちを切り替えたか、晴れやかな笑顔を見せた。
「いやあ俺達の“幕開け”だね。ほら、なんだ........アレ、ああいうのやろうかメルデラ」
「なんだい。結束を高める円陣...的なことを言いたいって?」
「そうそう.....よし、みんな集まろうか」
わっと手を掲げる金太郎に、円を作るようにメンガーが集まってくる。
「よっしゃ金太郎。気合い入れて掛け声しな!」
「ええ、俺よりそういうのは...メルデラのほうが適任なんじゃ......」
「アンタが言い出したんだ。いいからほらっ、やんなさいな」
「ああっ、わかったよ.......」
冴えないリーダーに不安になりそうになるが、しかし。
「こんな俺でもリーダーになったんだ。そうだな.......皆に安心して任せられる大将と証明するために、本気でいくよ」
この男がやると決めたときに見せる、一風変わった雰囲気に。『やればできる』という言葉をより極端にしたような男に、集まった面々はしかとリーダーたる風格を感じ取った。
「『寄る辺の灯火』!気張っていこう!」
「「おおっ!!」」
十八人の声が上がった。
掛け声に合わせて、寄せ集めのメンバーがついにまとまったようだった。
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「良かったんじゃないの、金太郎」
結成後。
がやがやとそれぞれ集まった者たちがお互いに挨拶をする中。
ひっそりと、2人は外を警戒していた。
「ああ........メルデラ」
「ん?どうしたんだい」
「─────いや、なんでもない」
なにか怪訝な様子で眉を潜める金太郎。
不思議に思うメルデラを他所に、金太郎の目線は室内に向いていた。




