16 嵐の前の
騎士団本部のロビー。
数え切れない騎士たちが集まっているのは、開始から時間が経って多くのプレイヤーが参加し始めたことに加えて、これから初めて装備の支給が行われるからだ。
「ゼルディオくん─────」
「はっ?!ふぅぁい?!」
背後からかかった女性の声に、ゼルディオは飛び跳ねるように驚く。
ゼルディオの慌てる様子に、面白そうに微笑むのはスイレンという名の女性プレイヤー。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「あっ.....いやっ?!なんでもないよ.....!」
声が半分裏返っているゼルディオに、スイレンはじっと怪しむような視線を送る。
「何かあるんなら言ってね!ほら、仲間でしょ?」
蛮族と違って自動的になったものだけど、仲間として信頼してほしい。
そういう意図があった言葉だったが、ゼルディオはどこか苦しそうな表情を浮かべるばかりで。
「そ........そうだねっ。仲間、だから......」
「どっ、どうしたの?ゼルディオ君.......?!」
そればかりか、虚ろな瞳を潤ませるゼルディオ。
「オレタチ........ナカマ.......ナンダヨネ?」
「いつの間にか、悲しき化け物みたいになってない?ゼルディオ君......!」
ゼルディオの様子に困惑していると、スイレンの隣から元気な声が響いた。
「なにやってんだっ?ほらっ見ろよ!ピカピカの装備貰っちまったぜ!」
妙なやり取りをする二人に、プレゼントを貰った少年のように目を輝かせるのは、ギャーベッツ。
その天真爛漫な明るさにゼルディオは、何か素晴らしいものを見たように目を丸くした。
「そうだよ、ねっ.....!俺達は、俺達は仲間なんだっ.........!」
ゼルディオの様子に、スイレンとギャーベッツは苦笑いを浮かべる。
きっとコイツは何かあったんだ。優しくしてやるか。密かにそう思ったスイレンとギャーベッツだった。
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仮拠点。ミルクとの情報共有を終え、俺とアマヤは騎士狩りの準備を始めていた。
商売を始めるための元手として集めたアイテムだが、ここで幾つかは使うつもりでいる。
「ふふっ、それにしても、ミルクの野郎はやりやがったな。どうせ後から分かってくるとはいえ、序盤からこんなに騎士の情報が漏れるなんてなあ。.....ブルーのやつも大変だ」
自然と悪い笑みが漏れてしまう。
騎士団は特に動画投稿・配信者が多いだろうから、情報は漏れやすいことは確かだ。
だがこんなにも早く、多くの情報が漏れるというのは流石に大きい。
「はぁ......今頃、その騙された人泣いてるんじゃないですか?」
「だろうな」
「私達も、いつか騙されるんじゃ」
「絶対にない......とは言い切れないのが怖いところだよな」
そう脅かしてみる俺に、「笑い事じゃないですよ!」とアマヤ。
けどまあ、本心では裏切らないだろうと思っている。ミルクは薄っぺらい奴だが、仲間との関係性は大事にする奴だから。
「ところで、このゲームってレベルみたいなのはないんですね」
「そうだな。強さイコール装備ってことだ」
装備がある上にレベルで強さが変わるとなると、プレイヤーの上下の差が開きすぎてしまう。
それに強さが装備で決まるならば、
「相手を殺せば、すべてを奪うことができるんだ。わくわくするだろ?」
「私達の装備も奪われちゃうんですけどね」
アマヤの言葉に一瞬、胸の奥がムズムズするような苦しいような感覚になる。だが決して嫌な感じではなく、武者震いのようなそんな感じだ。
「緊張してるか?」
「いやっ......してませんよっ!」
「俺はしてる。だがこれさえ頭に入れておけば良い。覚えとけ......やばくなったら逃げろ、だ」
緊張しすぎると冷静さを欠くかもしれないからな。
特に前のめりになりがちだろうアマヤには、あらかじめそう言っておくべきだと思った。
「逃げは負けじゃなく、引き分けだからな。じゃあ行くぞ」
「わかりました...!」
──────ゲームが開始して1時間。
早くも今後を大きく左右する戦いが始まろうとしていた。




