13 闘技場
コロッセオ。
筋骨隆々の肉体を露出した男どもが、死屍累々の戦いを。
という無骨なイメージだったが。
「いやっ......雰囲気が凄えな!」
「いい感じですね」
コロッセオにアクセスするなり、俺達3人は荘厳な大広間へと転移した。大きなガラス窓から淡い光が射し込み、床を覆う深紅のカーペットが奥へと広がっていく。その先、三人の受付係が並び、微笑みを浮かべながらこちらを待ち受けていた。
「あそこが受付でしょうか」
珍妙な二人組が去った後。俺達は街から離れた適当な場所に仮拠点を建て、ある程度の耐久性を確認した後、その中からこうしてコロッセオへと来た。
即席で建てたものの、恐らく現状のプレイヤーたちのレベル的にはかなりの労力を要するはずだ。
メタ的な考えだが、拠点が簡単に壊れてしまうというのはゲーム性が破綻しかねないからな。
「じゃあ行ってみるか」
しんと静まった中を三人で歩いていく。そんな中に、
「おぉめでとうございまあぁっっす!!!!」
パァンッ!!!!と、大きな破裂音と同時。
「わぁぁぁっ?!?!」
「なっ?!!?!」
女性の声が耳元で響いた。
「おっ、お前は.....レモンちゃん....?!」
「覚えて頂けてましたかっ!そうですっ!この私─────お転婆魔女っ子レモンちゃんでーっす!!」
黄色いアイドル衣装をひらひらと揺らして。
さっきも見たようなぶりっ子ポーズを披露するレモンちゃん。
「びっくりしただろっ!どいつもこいつも.......急に後ろからおどかしてきやがって....!」
ミルクの方へも鋭い視線を送る。
なんのことかなぁ、だなんて和やかな表情で誤魔化された。
「これは失敬千万!しかしこの私─────コロッセオへ初入場くださった御三方をお祝いしたく馳せ参じたのですっ!!」
「へぇ.......」
初入場─────か。この妙に静かで荘厳な雰囲気は、人がいない時ならではだな。
賑わって人が増えてくると味わえなくなる新鮮な空気感かもしれない。
「特典とかもらえるのかなっ?」
雰囲気に浸っていると、ミルクが興味ありげにレモンちゃんに話しかける。
「そうですっ!!こちらを見てください!」
「どれぇ?」
「こちらベーコン伯爵と、そして私レモンちゃんの、コスプレ衣装でございまぁす!!」
いッ────要らねぇ.....!!
レモンちゃんのテンションからなにか凄いアイテムでももらえるのかと思ったら。
ミルクでさえも、あまりのゴミアイテムっぷりに苦い表情を隠しきれなかった。
「なんと、お好きにどちらか選ぶことができるんですよっ!」
ニコッと、とびきりの笑顔を見せるレモンちゃん。
仕方なく、俺はベーコン伯爵の方を指差す。
「じ、じゃあ俺はこれで......」
真っ赤なストライプのズボンと、ジャケット。
そしてなぜか厚切りベーコンのような柄のハット。
「うおぉ......」
試しに一式を着てみた俺は、アマヤから悍ましいものを見るような視線を受ける。
うはははっ、とミルクからも豪快に笑い飛ばされた。
「いいですねぇっ、すごく似合ってますよー!!」
「おおそうか!って、こんなことやってるヒマはないんだった」
拠点はある程度丈夫とはいえ、悠長なことをしているヒマはない。
俺の言葉に、アマヤとミルクはレモンちゃんの衣装を受け取った。
そのまま俺達は奥へと進んでいく。
「闘技場をご利用になりますか?」
「ああー....えっと、この二人が一対一の決闘をするんですけど」
と、思わずこういうところは敬語になってしまう。
丁寧なお姉さんの対応も相まって、ロビーの雰囲気が完全にリアルのパブリックスペースなんだよ。
「こちらからお選びください」
受付のお姉さんがそう言うと、眼の前に大きなUIが現れた。
「おお、色々と設定があるみたいだな」
闘技場の大きさや地形など、様々な項目が選べるみたいで。
適当に闘技場の設定を終えたところで、受付のお姉さんが口を開いた。
「準備はできましたか?」
「はい」
続いてアマヤとミルクも返事を返すと、お姉さんが優しく微笑んだ。
「それでは、いってらっしゃいませ」
瞬きをするともう────────目の前の光景は一変していた。
そこは学校の教室より少し大きいくらいの小さな闘技場。それを囲むように、少し高い位置に観戦席がぐるっと並んでいる。その中心で、合図を待つように佇む二人。俺はというと──────。
「なんで俺が実況席にいるんだっ.....!?」
「さてさてッ!!今日もとて熾烈な決闘が幕を開けようとしています!!一人の男を巡ってか、はたまた因縁めいたものかッ!!女と女の熱き魂のぶつかり合い!!!」
一人の男をって、適当言いすぎだろっ!
「実況はこの私、お転婆魔女っ子レモンちゃんがっ!そして解説はこの方ぁ──────────」
「あ、あーっ.....そうっ!この俺!シナナキがお送りするぞー!!」
もういいか!とばかりに勢いに乗ったセリフを吐くと、闘技場の中央からなんとも言えない視線が飛んできた。
「準備時間は1ッ分間です!!今回のルールでは、いくつかの基本的な武器と防具を選ぶことができます!」
それに加えて様々なスキルを選べるような設定もあったが、それは今回のところなしとした。
「ちなみにそれぞれどれくらいの数があるんだ?」
「武器30種!防具30種です!」
「おーっ、結構いろいろ使えるんだな!」
意外と種類が多い。
流石にここは本編と比較すると練習場ということで、限られた基本的なモノしか使えないみたいだが。
そうこう考えている内に、一分が過ぎた。
「準備時間終了っ!!」
二人の装備はというと─────見た感じ、アマヤは中程度の重さの防具に直剣と盾。基本的な、動かしやすい感じだ。
ミルクの防具は皮やら布やらの軽装だな。それと短いダガー。アマヤと比べてかなり軽量の、機動力に長けた装備だ。
単純なカチ合いならリーチの長い直剣が有利だろうが、ミルクが機動力────そしてスキルを活かすことで勝敗が変わってくる筈だ。
決闘開始までーっ、5!」
レモンちゃんの掛け声と同時に、決闘場の真上に表示された大きな数字が、4、3と徐々にカウントが進んでいく。
「2、1、0──────!!!それではぁー!スタァートですっ!!!」




