12 公正決闘会
「んで、どうすんだ?流石にこの場で戦うってのはないだろ」
ミルクがチームに参加する条件として、一対一でミルクに勝たなければいけなくなったアマヤ。
早速、決闘開始の宣言を.......と言いたいところだが、しかし。
「うーんっ、決闘場みたいなのがあればいいんだけどねっ!」
ミルクの言っているとおり、
ここが中心から外れた人気の少ない広場とはいえ、町中で戦うというのはリスクが大きすぎる。
どこにいても他の蛮族に襲われる可能性は拭いきれないが、せめて騎士が少なそうな場所で。
そう、考えていたら。
「───今ッ!!『決闘』..........とッ、そう言いましたかね?!」
低くハリのある声が広場に響く。
細い声を漏らし、ミルクが身をよじらせた。
「えぇっ?!誰....?!オジサンっ.....」
バサリと、真紅のマントが翻り。赤を基調とした服に、
“肉”を模したような特徴的なハットを被った、白いヒゲを生やした長身の男が現れた。
そしてその背後から。
今度は黄色を基調とした、ヒラヒラのアイドル衣装を着た少女が。
大きなマイクを持って現れた。
「吾輩の耳は誤魔化せませんぞっ!そうだろう?確かに言ったはずだっ!なぁレモン君」
「そうですねぇっ!あちらの可愛らしい彼がそう言っていましたぁっ!」
なんだ、このド派手な二人は......っ?
妙に演技じみた彼らの口調に、雰囲気に飲まれて、俺達は唖然としてしまった。
「おっと失礼、吾輩、ベーコン伯爵という者である。以後、お見知りおきをッ!そしてこちらがぁ─────っ」
「どうもーっ!おてんば魔女っ子、レモンちゃんでーすっ!」
ウインクしながら大なり記号のように目の横で、バッチリとピースを決めるレモンちゃん。
「........キャラが被ってねえか、ミルク」
「挨拶がそれっぽいだけでしょー?何を言ってるのっ、シナちゃぁん」
ミルクが目を細めて、口をへの字に曲げた。
「なっ、なんなんですかこのヘンテコな二人はっ......?!」
思わずそう口に出すアマヤに、ベーコン伯爵がむっとした表情をする。
「ヘンテコではナイッ!我々、公正決闘会という組織である!─────この律無き地に於いても、お互いの同意に基づいて行われる熱い決闘を我らは皆に届けたいのだッ!」
「そうなんです!私たちはその決闘を公正に見届けるべく、広めるべく活動をしているんですっ!」
要するに、無駄な介入の入らない健全な一対一を作ってくれると。
そしてそれを、実況し動画に収めるという感じなのだろうか。しかし、伯爵の言う通りここは全くの無法なわけで。
「........とか言って、決闘の最中に漁夫の利でなんやかんやするつもりなんじゃねえだろうな?」
俺の言葉に、伯爵は冷静に答える。
「我々はそのように決闘を汚すようなことは断じてしない。元より、我らは決闘を見届けるだけに存在するのだからね」
なんだろう、今のベーコン伯爵の言葉。
決闘を見届けるだけに存在する。というのは。
「.......ふーん」
ミルクの小さな呟き。
何か得心の言ったようなその表情に、俺が期待の視線を送ると、ミルクが俺の傍にやってくる。
「NPCなのかなぁ」
俺は「かもな」と、頷く。
「タイミングと、分かりやすい言い回しがそれっぽいな」
それに、「そうですねぇっ!あちらの可愛らしい彼がそう言っていましたぁ───っ!」というレモンちゃんのセリフもそうだ。あのミルクの見た目から、初見で男だと見抜けるわけがない。
「ねぇねぇ、じゃあさっ。いくつか質問させてよっ?」
「勿論だとも!」
ミルクの言葉に、ベーコン伯爵は意気揚々と答えた。
「まずっ、『公正に決闘』....っていうのはさ、どうやって実現するの?」
「ふむ。それは我らがコロッセオの中でなら実現するのだ!」
「コロッセオ......?」
そこで、ピコリ─────。と小さな音が鳴って。
あからさまに光るUIが表示された。
「これは......」
俺だけでなく、アマヤとミルクもそれに反応する。
『コロッセオ』そう書かれたUIに触ると、ご丁寧に説明文が出てきたので、順に読んでいく。
要約すると.........。
『コロッセオ』はどこからでもアクセスすることのできる特殊な空間で、アクセスすると自分の本体は仮死状態となってその場に残される。.....つまり、安全な場所でアクセスしなきゃコロッセオに行ってる間に好き放題されるってことだ。
そして、コロッセオの中は騎士や蛮族の区別のない平和な場所になっており、コロッセオのルールに則り様々な戦いを楽しむことができると。
こっちの無法な世界とは全く隔離された、練習場的な空間........ということか。
「NPCってのも確かみたいだな」
「そうだねえっ。ハードコアな世界だけど、結構こういうところは優しいんだなあ」
騎士の存在もそうだが、初心者が打ちのめされすぎないように。
このコロッセオなら、常に疑心暗鬼でいないといけない中、一応平和な安らぎの空間があるように。あくまでもゲームを楽しんでほしいという意思が垣間見える。
「何か他に質問はあるかな?」
「いや、大体わかったよー。ありがとうねっ伯爵!」
華やかな笑顔を見せるミルクに、伯爵は会釈を返す。
「それは良かった!では、我々は去るとしようか!クルミ君」
「はぁいっ!皆さん、ではまたぁぁっ!!」
軽快に響くクルミちゃんの声と同時。
ベーコン伯爵が大きなマントを広げると、二人の姿が完全にマントの中へと隠れた。
そのまま、おおきなひと塊となったマントは崩れて形を失い、地面に落ちながら徐々に透明になって消えていったのだった。




