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10 巡る思惑

「ワンドッグの毛皮が12個、牙が8個、爪が3個。ゲルスラの粘液10個、核3個。それと、脳ミソが1個..........ですね」

「待て待て、脳みそって何だよ!スライムに脳みそなんてあったか?!」


愉快な会社員二人組と別れて草原を離れた後。

お互いにインベントリの中を整理していたのだが。


「ゲルスラがたまに落とすレアアイテムみたいですね!他にも素材系のアイテムが沢山────」

「........絶対に実物は見たくないな」


ゲルスラの話はまあ良いか........ともかく、ここ1時間弱くらいの時間でかなりの成果が得られた。

もうインベントリが一杯で困っているほどに。


「流石にもう殆どインベントリに入らねえ。死なないとか以前の問題だ」

「収納を作りますか」


『制作』───。例によってこのゲームも、道具を作って家を作って......というサバイバル要素がある。

インベントリと同じような収納箱も作れる。けど、


「いや───まだいい。見つかったら奪われるからな」


当然のごとく蛮族まみれのこの世界。

収納箱がそのへんに置いてあろうもんなら「グヘヘへ」と、下劣な笑い声とともにすべてを奪われる世界だ。

例え強固なマイホームを建て厳重な守りの中に隠したとて、奪われない保証はない。


「拠点を建てて収納を守るのが順当だが、順当にリスクも生まれる」


基本的に守れるが、破られることもある。

…..ということだ。


「アマヤはどう思う」

「.......今のところは人数が少ないので、拠点を守る難易度が大きいですよね」


そう。流石にこういうところはゲーマーらしい答えが返ってきた。俺達のようにチームの人数が少なければ当然、拠点の防御も薄くなるということだ。


「けど、適当に人数を増やすのは愚策だな。アマヤの事は完全に信用しているわけだが、適当に増やした仲間に裏切られることだけは避けたい」

「えっ、あっ、そうですよね」


信用している、という言葉にアマヤが明らかに反応を見せる。これが演技で、「この時を待っていた!」と、クライマックスに裏切られたら人間不信になるからやめてくれ。

……どちらかといえば裏切る側の人間が言えたことじゃないか。


「確かに俺達二人で拠点を守るのは至難だ。が、俺は順当に拠点で守る形にしようと思う」

「ん?今の話でそうなるんですか?シナナキっぽくないですね。もしかして偽物ですか......?」

「正真正銘本物だわ。で、理由だが.....うまくやれれば、二人でも拠点を守れると思うからだ」


それを聞いて、少し考えてアマヤが答える。


「まさか.....二人で頑張って守るってことですか......?」

「それならこんな含みを持たせねえよ!....拠点に来る敵をすべて迎撃するんじゃない。そもそも“守り”すらしない。はなから拠点を襲えない状況にすりゃあ良いんだ」


────そう。拠点があるからといって、むやみに攻撃されるわけじゃない。理性なきモンスターから拠点を守るタワーディフェンスなのではなく、この世界は、必死に生存戦略を練るもの同士のストラテジーなのだから。


「極端な話、その拠点を襲えば百人のプレイヤーが報復に来るとして、襲うか?」

「それは......まあ。襲いません.....けど?」


悔しいですけどね!という顔のアマヤ。

しまった、コイツは勝てそうにないほど燃えるタイプだった。


「まあ、分かってたら普通は襲わねえだろ。相手に攻めさせたくない状況を作れれば、二人でも守れるっつうことだ」

「そんなことできるんですか?二人だけなのに」

「できる。この調子で俺の『攻略計画』を進めていければ、な」


言い方と字面の怪しさに、アマヤが訝しげに目を細めた。


「な......なんですかそれっ」

「なんだよ。俺の計画に狂いはねえ」

「急に言い方が怪しすぎるっ?!」


少し間を置いて、俺は詳しい話を始める。


「これからの計画はこうだ。『スリで奪い取ったアイテムを元手に、大手蛮族プレイヤー御用達の“闇商人”にのし上がる』」

「闇商人......?」

「蛮族が商人やったら闇商人だろ」

「確かにそうですけど......でもやっぱりそういう、怪しい言い方好きですね?」


それは、そうかもしれない。


「さっきの話に戻るが、でかい蛮族団が取引先としてバックに入れば、俺達二人で守っていても襲われづらくなるってことだ」

「なるほど。それで、うまく大手の蛮族団に取り入る策はあるんですか?」

「──────ない」

「へ......?」


溜めた末に放たれた俺の言葉。

アマヤが拍子の抜ける顔をした。


「強いて言うなら早めに行動してる分ライバルが少ないってことくらいだな」


そこで口を開こうとするアマヤに。

「だが」──────と、食い気味に。


「俺が、その策を持っていないだけだ」

「........ということは」

「一人チームに入れたいやつがいる。とある────────情報戦の天才野郎だ」


外交、計算、舌戦。頭のカタさもヤワラカさも持ってる、変幻自在のインテリ男。

あいつならこの難題にも乗ってくれる筈だ。

虎の威外交で安全に、元祖闇商人として世界の交易と情報を牛耳る!

スリで土台を作った上での──────ステップ2だ!


─────────────────────────────────────


「あっ!お兄さぁん」


耳元にかかった甘い声。

突然のことに、騎士の男は一瞬だけ身体を震わせる。


「んっ.....?」

「お兄さんっ、騎士だよねえ?ボクも騎士なんだけど、ちょっといいかな....?」


男が振り向くと、目の前でキャラメル色のボブがふわりと揺れた。

可憐な表情で腕を掴んでくる少女に、男は思わず顔を赤らめた。


「えっ、ああ....騎士......?」

「そう!本部の場所が分からなくって....」

「ああっ!それくらいなら案内するよ?」


自身の言葉に顔を明るくする少女に頬を緩める男。


「やったあ!ありがとうお兄さんっ」


好機とばかりに、男は胸を張って少女を先導する。


「うん....!えっと、ここからだとあっちの方向かな」

「そうなんだっ。お兄さんを頼らなかったら分からなかったよー!」

「はは、なんでも聞いてよ!俺、結構騎士の事は詳しいからさ」

「えっ本当に!?今始めてすごく困ってたんだ~っ」


こんな状況になってはもう、男の脳内には眼の前の少女のことしか無い。


「お兄さんすごく詳しいんだねえ!助かっちゃったなぁ......」

「これくらいなら全然......ところでその、俺はゼルディオっていうんだけどさ!君....なんていうの?」


薄暗い路地の中。

騒々しい町中を抜け、少しの静寂が訪れたところで男が切り出す。

本部に付く前に、自分以外の男と知り合う前に、いちはやく関係を深めようという打算をもって。


「あっ、そういえば名乗ってもなかったねっ!」


男が少女の方を振り向こうとしたところで。

少女はスキップするように、軽やかな足取りで男の前へと通り抜けた。


「ボクの名前はっ........」


そしてくるっと男の方を振り返り、路地の奥から差し込む逆光の中。

少女は後ろに組んだ手を口元に持ってきて、人差し指を立てた。


「ヒ・ミ・ツ♡」


次の瞬間、男は自身の頭へと飛来する刃物を見た。


「えっ────」


視界がぐるんと回って、男は地面に身体を落とす。

そして次に、路地の建物の隙間から見える青い空を割って、自身を覗き込む可憐な表情の少女を見た。


「んふふっ、色々ありがとうねっ」


少女の笑顔に、微かな狂気を見て。


「────────はっ?!ちょ......っ?!」


気付いた頃にはもう遅い。

何かを話す暇も無く、男は塵に変わって消えていった。

騎士の仕様も内情も、男の装備も。すべてを搾り取った少女は、ため息を一つ。


「はぁ〜あっ、歯ごたえがないなぁ。ゼル.....なんだっけ?まあいいや。何とか君のお陰で情報は手に入ったし」


路地裏の隅に座り込んで、退屈そうに頬杖をつく少女。

その表情は、しかし、突然色を変えていく。


「っ......!ぁはは、ふふ」


誰からの連絡が来たか、宙に映し出されたホログラムを見て。

思わずこぼれてしまったというような自然な笑みを浮かべて、少女は立ち上がる。


「また僕を楽しませてくれるのかなぁ.......シナちゃんっ.....!」

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