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第6話:異常信号

病院棟の夜は静寂に包まれていた。

雪に覆われた外界からの光は、薄暗い廊下に僅かに差し込むだけ。

氷室アサギは手術室から戻り、モニター室の前に立つ。

心拍、血圧、呼吸、そして感情値――

すべての数字が通常通りに見えるはずだった。


だが、画面の隅で微かに点滅する赤い光が、氷室の目に留まる。

「……異常信号?」


モニターの波形は微細に乱れ、通常のアルゴリズムでは検知できない動きを示していた。

心拍数も安定している。

だが、システムが“何か”を察知して警告を発している。


氷室は背筋に寒気を感じながら、指を震わせてキーボードを叩く。

ログを遡り、過去の手術データや監査記録と照合する。

「異常は……ない……はず」


だが警告は消えない。

赤い点滅が不規則に光り、まるで自意識を持ったかのように脈打つ。

氷室は深く息を吸い、少女の声を心に呼び寄せる。


――『先生、何か来る……』


ユナの声ではない。

胸の奥で、記憶と感覚が微かに震える。

手術室でも、モニター室でも、氷室だけが“感じる”何かが迫っていた。


結城セイが静かに背後に立つ。

「異常信号か……封鎖の前兆だろう」


声は低く冷たい。

だが、瞳の奥に不安が微かに浮かぶ。

彼もまた、システムの異変を完全には理解できない。

だからこそ、氷室の感覚に頼るしかないのだ。


「誰かが操作している……内部改ざんかもしれない」

氷室は声をひそめ、モニターの赤い光を睨む。

手の震えは今までにないほど強くなった。

数字では表れない感情の揺れが、手を制御する。


突然、モニターの一部が黒く落ち、赤い警告音が鳴り響く。

廊下に反響する音が、まるで遠くからの警鐘のようだった。

「封鎖は、すぐそこだ……」


氷室は深く息を吐き、震える手を握り直す。

「止まらない……手は止めない」


結城の視線が鋭く氷室を捉える。

二人の間に、言葉を超えた理解が流れる。

数字も規則も、この瞬間の危機を救うことはできない。

必要なのは、手を止めない意志だけだった。


モニター室の赤い光は、ゆっくりと明滅を繰り返す。

その光の先で、氷室は少女の存在を感じ、手を動かす。

優しさが罪になる世界でも、手を止めなければ、守れる命がある——。


廊下の奥、封鎖を告げる赤い信号が脈打つたび、

氷室の胸の奥に、熱く確かな決意が刻まれる。

誰も止められない手が、今、動き出す——。


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