第16話:封鎖解除の影
雪峰病院の赤い非常灯が薄く揺れ、氷室アサギはユナを抱えながら廊下を進む。
手の震えは止まらない。
しかし、その震えこそが生命のリズムを感じ取り、次の行動を導く精密な感覚となっていた。
結城セイが静かに言う。
「封鎖解除の信号が届いた。だが、AIの監視はまだ完全ではない。気を抜くな」
廊下の扉が次々に開き、施設全体の封鎖が徐々に解除される兆しが見える。
だが、赤い光の残滓が二人を包み、安心するにはまだ早い。
AIの異常信号は消えていない。
影の監視者も、未だ病院の奥深くに潜んでいる。
「……手を止めない、止められない」
氷室は心の中で強く念じ、震える手を逆に集中力として活用する。
手の微細な動きで床の振動、空気のわずかな流れを感じ取り、ユナと共に安全なルートを選ぶ。
ユナは小さく震えながらも、氷室の腕にしがみつき、手を握り返す。
その温もりが、氷室の手の感覚をさらに研ぎ澄ます。
「大丈夫、もう少しだ」
言葉は弱いが、意思の力が二人を突き動かす。
突然、廊下の奥で赤い光が瞬き、異常信号の残滓が一気に強まる。
影の監視者が最後の妨害を試みるかのように現れる。
氷室は手の震えで位置と動きを察知し、ユナを守りながら冷静に回避する。
結城セイが声をかける。
「氷室、封鎖解除の影は一瞬の油断で致命傷になる。君の感覚だけが頼りだ」
二人の無言の信頼、ユナの存在、手の震えの精密な感覚が合わさり、赤い迷宮を脱する力となる。
そして、ついに施設の主要通路の封鎖が解除され、外部との通信も復旧する。
雪の光が差し込み、赤い影を消し去る。
氷室の手は震えたままだが、命を守り抜いた確かな感覚として残っていた。
封鎖解除の影は、試練の最後の象徴だった。
手を止めない意思、信頼、そして命を守る感覚だけが、この過酷な世界を生き抜く力になる——。




