第15話:迷宮の脱出
雪峰病院の迷路のような廊下。赤い非常灯が壁や床に長く影を落とす中、氷室アサギはユナを抱え、手の震えを頼りに進む。
震える手は恐怖の象徴ではなく、命を感じ取り、次の行動を導く精密な感覚になっていた。
「……出口は、どこにある」
氷室は小さく呟く。
封鎖された施設内、AIの異常信号、そして影の監視者。
すべてが絡み合い、脱出の道を難解にしていた。
結城セイがそっと肩に手を置き、囁く。
「焦るな、氷室。迷宮は心理戦だ。君の感覚だけを信じろ」
彼の冷静な声が、氷室の胸の奥に安定をもたらす。
孤立した施設の中、頼れる存在は結城とユナだけ。
ユナは小さく震え、氷室の腕にしがみつく。
その小さな体温と呼吸の微細な変化が、氷室の手の震えと共鳴する。
「大丈夫、私がいる」
言葉に力はないが、心の決意が響き、手の震えが集中力へと変わる。
廊下の角を曲がると、影の監視者がゆっくり現れる。
AIが操作する扉も次々と閉まる。
だが、氷室は手の震えで微細な空気の変化を読み取り、最適な回避ルートを導く。
手の動きは、命の脈動そのものを捉えた指針となる。
結城が影に向かって冷静に指示を出す。
「氷室、迷宮の出口はすぐそこだ。信じろ」
二人の無言の連携と、ユナの存在が、AIと影の監視者の策略を超える力となる。
氷室は深呼吸し、手の震えを完全に信じて次の一歩を踏み出す。
赤い非常灯の迷路を抜け、外界に続く扉がわずかに開いた瞬間、雪の光が廊下に差し込み、影を一掃する。
ユナの小さな手が氷室の指に触れ、握り返す。
「……先生、怖かった」
「大丈夫、もう少しだ」
震える手と心が一体となり、迷宮からの脱出を成し遂げた瞬間だった。
雪峰病院の迷宮は、命と意思を試す試練だった。
手を止めない意思と信頼だけが、この過酷な世界を生き抜く力になる——。




