第14話:影の監視者
雪峰病院の赤い非常灯が、廊下を血のように染める。
氷室アサギはユナを抱え、手の震えを頼りに迷路のような施設を進む。
震える手は恐怖ではなく、命の脈動を感じ取る精密な感覚となっていた。
「……誰かいる」
廊下の奥、微かに聞こえる足音に氷室は立ち止まる。
影が壁に揺れ、監視カメラの赤いランプがちらつく。
雪峰病院の閉鎖は完璧で、外部からの干渉は一切ない。
だが、内部には“もう一つの視線”が存在していた。
結城セイが低い声で囁く。
「影の監視者……AI以外に、ここには誰かがいる」
その言葉に、氷室の胸が締め付けられる。
孤立した病院に、AIだけでなく人の影まで潜んでいる。
命を守る手は、さらに緊張を強いられる。
廊下の角を曲がると、薄暗い光の中に人物が浮かび上がる。
黒衣に身を包み、動きを殺すように歩くその影は、監査AIの制御を利用し、二人の動きを封じようとしている。
「止まらない……手は止めない」
少女ユナの声が胸の奥で響き、氷室の手の震えが集中力に変わる。
手の微細な動きで周囲の空気の変化を読み取り、影の監視者の存在を察知する。
結城が影に向かって静かに告げる。
「氷室、君の判断がすべてだ。影は心理戦を仕掛けてくる。惑わされるな」
彼の声は冷静だが、緊張感が背中を押す。
氷室はユナを守りながら、手の震えを逆に羅針盤として利用し、影の監視者の動きを封じるルートを導く。
モニターの赤い点滅はAIの監視の象徴であり、影は人間の策略の象徴。
二つの脅威を同時に回避するため、手の震えが命の微細な信号を読み取る。
廊下の奥、影の監視者がゆっくり近づく。
氷室は深呼吸し、手の震えを完全に信じる。
少女ユナの小さな手と、結城の冷静な視線が力を与える。
そして、赤い光の迷宮の中で、氷室の手は止まらない——。
雪峰病院の影の監視者は、試練の象徴。
だが、手を止めない意思があれば、希望は必ず見える——。




