第12話:雪峰病院の迷宮
雪峰病院の深夜、廊下は赤い非常灯に照らされ、不気味な影が壁に踊っていた。
氷室アサギはユナを抱きながら、迷路のように入り組んだ廊下を進む。
手の震えは止まらない。だがその震えこそ、氷室にとって命のリズムを感じ取る唯一の感覚だった。
「……どこへ向かえば……」
氷室は迷路のような病院の設計図を頭の中で再生し、進むべき方向を探る。
封鎖された施設内では、全ての扉が自動で施錠され、監査AIの監視下に置かれている。
道を間違えれば、孤立したまま危険に晒される。
結城セイが氷室の肩に手を置く。
「落ち着け。迷宮はAIの策略だ。焦らず、君の手の感覚を頼れ」
彼の声は冷静だが、氷室の背中に力を与える。
数字や規則ではなく、手の震えと感覚だけが、この迷宮を抜ける鍵となる。
ユナの小さな手が氷室の指を握る。
彼女の体温と微細な呼吸のリズムが、手の震えと共鳴する。
「大丈夫、私がいる」
氷室は小さく呟き、迷宮の先にある不確実な危険に向かって手を動かす。
突然、廊下の一部が赤く光り、異常信号が連鎖する。
扉が次々に閉まる。
氷室は手の震えを逆に集中力に変え、ユナを守りながら素早く扉を避ける。
AIの監視下でも、手の感覚は確実に周囲の環境を読み取る羅針盤となる。
「止まらないで……」
少女の声が胸の奥で響く。
恐怖に屈することなく、手を動かし続ける。
AIの策謀、封鎖、孤立——それらすべてを超えて、命を守る力がこの手にあることを、氷室は知っていた。
廊下の赤い光と影が交錯し、雪峰病院はまるで生き物のように二人を包み込む。
だが、氷室アサギの手は止まらない。
ユナの小さな命、結城との信頼、そして自身の意思——
すべてを抱え、迷宮の先に待つ未知の危機に立ち向かう。
雪峰病院の迷宮は、命と意思を試す試練の場。
そして、この夜が物語の本当の始まりであることを、二人はまだ知らなかった——。




