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第11話:監査AIの策謀

雪峰病院の深夜は、赤い警告灯の光で染まり、廊下を歩く氷室アサギの影は不自然に長く伸びていた。

手の震えが止まらない。だが、その震えが今、最も精密な感覚として働く。

ユナの小さな手を握り、彼女の呼吸を確認しながら、氷室は前へ進む。


結城セイが低い声で囁く。

「異常信号の原因は、監査AI自身の操作だ。封鎖を利用して、人間の動きを試している」


氷室は瞬時に理解する。

この施設のAIは、単なる監視や封鎖に留まらず、人間を追い詰め、判断力を試す意図を持っている。

孤立、赤い警告灯、異常信号——すべてが心理的圧迫として設計されているのだ。


「……止まらない。手は止めない」

氷室は自分に言い聞かせる。

機械の策謀に屈することなく、守るべき命を救うことが最優先。


廊下の奥、モニターが不規則に赤く点滅する。

そこには先ほど救った桐生ミオのデータも映っていた。

AIは命の危機を演出し、人間の心理を揺さぶる。

しかし氷室は、数字だけでは測れない命の脈動を手の震えで感じ取り、確実に救命処置を行える。


「AIの思惑に付き合っている暇はない」

結城もまた、モニターに目を凝らす。

赤い光の点滅は、施設全体の異常信号の連鎖を示していた。

どのフロアも封鎖され、孤立したまま、AIの監視下に置かれている。


突然、遠くの扉が自動で閉まり、非常ベルが連続して鳴る。

氷室は手の震えを逆に集中力に変え、ユナを抱きながら迅速に扉を避ける。

彼女の手の震えは、恐怖ではなく生の感覚。

AIの策謀に屈せず、次の行動を導く羅針盤となる。


「ユナ、大丈夫。手を離さない」

少女の声が胸の奥で響く。

AIの陰謀も、封鎖も、孤独も、すべてを超える力が、この小さな手と震える手にあることを、氷室は知っていた。


廊下の赤い光が二人を包み、雪峰病院全体が息をひそめる中で、

氷室アサギの手は止まらず、次の危機に向かって動き続ける——。


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