3-6.『さまざまな者たち』
モップ掛けを終え、世加依はようやく鞄に用具を入れて、帰りの支度を整える。
友人の敦子と早苗は、それぞれテニス部とバスケット部の練習に行っているため、世加依の下校は基本一人だ。
本来ならば自分も何かの部活動に入ろうかと思ったが、運動音痴な上にコミュ障で、そしてヲタクな自分にとっては帰宅部がふさわしいのだという答えに落ち着いている。
教室では同じく帰宅部なのだろうが「前野俊」君などが放課後の雑談に花を咲かせている。
世加依はそんな楽しそうな男子の雑談を横耳に教室を出た。
すると大きな体格の男子が目の前に現れ、すれ違う。
クラスメイトの「剣弥之介」である。
世加依は彼のヤンキー風のその風貌に怖気付いて目を逸らす。
彼はボクシングジムでボクシングに励んでいるという事を聞いたことがある。
自分とは関係ない人種だ。
そう思いながら彼とすれ違った。
世加依はやがて廊下の終わりに着き、階段を降り始めた。
その時、
ケンジ「わわっ!ごめんなさいっ!」
いかにも優しそうなモヤシっ子が目の前に飛び出してきた。
階段でぶつかりそうになったのは、菓子パンや惣菜パンの袋を腕のなかに抱えたクラスメイトの「佐藤賢治」くんだ。
通称「サトケン」と呼ばれている。
きっと誰かにお遣い、もとい、"パシリ"を頼まれたのだろう。
"人が良い"。
そこに付け入れられているのだろう。
同じ「日陰者」同士、お互い大変ですね。
世加依は、先ほどまでの掃除を押し付けられて湧き上がっていた苛立ちを、賢治への共感に変えながら階段を降りていく。
すると今日の授業で「流川美空」くんを叩いた教師「工藤美咲」教諭とすれちがう。
美人の風格があるが化粧っ気がないのがどこかもったいないような印象をいつも受ける。
ミサキ「さようなら」
美咲教諭のどこか凛とした挨拶に呼応するように「さようなら…」と返事をする世加依。
そのどこか寂しげな教諭の背中を振り返りながら、世加依は学校を後にした。