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3-4.『ヒバリ』

シュン「あーあー川の流れのように~」


そう茶化してくるのはお笑い大好き、友人の「前野俊」だ。


シュン「ゆ~る~や~かに~」


ミソラ「もうやめろや」


俺は苛立ちを含ませながら、俊の口に手を当てて、歌うのを辞めさせまいとする。


理由は簡単。


俺の名前「流川美空」。


これが癌だ。


美空に、川の流れと来たもんだから、それが、とある「昭和歌謡の女王」を彷彿とさせるからである。


俊とは幼馴染だが、何かあるとすぐに俺をこうして

イジってくる。


思い浮かべる年老いた昭和の歌姫はどこか、自分の祖母を連想させた。


彼女の歌った曲は伝説の歌謡曲として、歴史上に語り継がれている。  


この歌を聴くたび、祖母がその歌う彼女の映像を観て、涙を流していた様子が思い出される。


たがその『涙』を俺は未だ理解できない。あんな古臭くてテンポの遅い曲のどこがいいのやら。


細井「いくつも時代は〜♪」


太田「過ぎて〜♪」


俊の両隣に居座る二人の男子校生が、続け様に昭和の名曲を歌う。


名前は細井と太田。


名前の通り細井は細身の身体で、太田は太っちょだ。


俊と昔からつるんでいる三馬鹿トリオだ。


美空は遠い回想に誘われる。


それは田舎のばあちゃんと過ごした、幼き日のある日の事だった。


ばあちゃんはテレビ画面に映っている昭和の歌姫の演歌に夢中である。


感動している老婆に幼い美空は、水を差すような言葉を発する。


ミソラ・幼「ねえばあちゃん、ゲームやらせてよ」


祖母「しょうがないねえ」


古い映像媒体のなかの、古びた幻想体。


それがテレビの消灯と共に消えた。


代わりに幼き頃の俺は、黙ってゲームコントローラーを握ったーーそんな記憶を思い出す。


やっぱりババ臭いのは嫌いだ。


シュン「ったくよお、ミサキちゃんを怒らせるんじゃねぇよ」


ミサキちゃん。憎き、工藤美咲教諭の事である。


シュンは教師にすらちゃん付けにしてしまうような軽い男である。


でもその軽薄さが関わりやすいのか、陰気な俺とは対照的に世渡り上手だ。それが妙に苛立つ。


ミソラ「うるせぇな。あのセンコウしつこいんだよ。黙って寝かせろっての」


俺は教師という人種が嫌いだ。


ただ早く生まれたというだけで威張りくさってるのが妙に腹立たしい。俺は命令されるのもするのも嫌いなんだ。


シュン「ちぇっ、こりゃあモテねえな。せっかく男前なのによ」


ミソラ「ほっとけ」


そんな風に友人の文句を横目に美空はふと、視線をとある女子へと向ける。


美空の視線の先にいたのはクラスメイト峯敦子だ。


敦子ちゃん…。今日も可愛いな…。


美空の視界には、同じグループの世加依と早苗は見えておらず、峯敦子だけが克明に浮かび上がっており、彼女がほほ笑むたびにひそかに胸を高鳴らせていた。

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