2.『マンガ』の『セカイ』
『何かが』『違う』。
『ありきたりだ』。
『足りない』。
『つまらない』。
『ボツ』だ。
漫画家を目指す高校2年、"流川美空ナガワ・ミソラ"は、不覚にも"その"予兆を右手のペンタブの先に感じ取った。
割られているコマは空白のまま。
自分で考え、生み出そうとしたマンガのはずだ。
だが内容も構図も分かりきっているだけに、高揚していた気分は冷めていた。
何とか騙し騙し続けていたが、もう、先に進めそうに無い。完成させられそうにない。
『ドキドキ』が鈍化していく気配。
これもボツだな。
なあ神様。
『マンガ』って何なんだ?
果たして、いつになったら「マンガ」を完成させ、「漫画家」になれるのだろうか。
美空は回転チェアに寄りかかると、頭上の天井窓を見上げた。
夜光が差し込む、円形の窓。
屋根に穴を開けるというリフォームによって、設置された窓である。
幼い頃に慕っていた「叔父」が、取り付けてくれたものだ。
付属するスライド梯子を降ろせば、屋根の上に登ることもできる。
が、幼い頃に降ろしたのを最後に、梯子はほとんど使っていない。屋根にはもう、ほとんど登っていない。
今度は、部屋の隅に視線を向ける。
幼少期に叔父からもらった「望遠鏡」が視界に入った。
この世界ではない、別の遠いどこか。
無数の別の惑星に想像を馳せていた、幼少期が思い出された。
しかしその古びた想いを象徴するかのように、望遠鏡はすっかりホコリを被ってしまってる。
夜空に視線を戻すと、半月は浮かんでいた。しかし星の光は繁華街の街明かりのせいか、よく見えない。
夜空を見上げてみれば、何か画期的な「アイデア」が降ってくるのでは…。
そんな短絡的な期待を抱いてみたが、状況が好転することは無かった。
どうして前に進めないのだろう。
何なんだよ…何なんだよマジで…。
ウジウジと悩む自分が嫌になる。腹が立つ。
でも、その解決方法がどこにあるのか、俺には解らない。
なあ『流川美空』よ。
オマエの『夢』は、本当に『漫画家』か?