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影の謁見

ウンブラの大広間は、まるで空に浮かぶ太陽のような電灯で照らされていた。

中央の玉座には、質素な衣をまとったハルトが静かに座り、

その両脇には、レイスたちが無言で控えていた。


最前列には、選ばれた村人たちが招かれていた。

すべてが公開される——秘密は許されなかった。


サー・アルマンが堂々と入場する。

青いマントをはためかせ、重厚な足取りで前へ進む。

その背後には、一人の侍女が目を伏せて木箱を抱えてついていた。

——本当の正体は、変装した女王イゾルデ。


アルマンが丁寧に頭を下げる。


—「我が王国エセリオンの名の下、イゾルデ陛下の意思を携えて参りました。

 ウンブラの変革を認め、対話を求めるものであります。」


ハルトは微動だにせず、鋭い眼差しで彼を見つめた。

低く、重く、計算された声が響く。


—「強国が使者を送る時、常に疑問が生じる。

 それは“平和”のためか——それとも、“条件”のためかだ。」


—「問おう、サー・アルマン。

 交渉のために来たのか?

 それとも——私の忍耐を試しに来たのか?」


場内は凍りついたように静まり返った。

息を呑む村人たち。


アルマンは冷静を保とうとしたが、緊張がにじむ。


—「ウンブラの成長は確かに目覚ましい。

 ですが、諸国の均衡は繊細なものです。

 我が国エセリオンは、争いではなく協力を望んでおります。」


ハルトは薄く、しかし冷笑のような笑みを浮かべる。


—「“協力”——聞こえはいいな。

 俺のいた世界でも、同じような言葉が使われていた。

 “家族的な会社”、そう言いながら、

 従業員を搾り取ってボロボロにする上司たちがな。」


そして身を乗り出し、厳しい眼光をアルマンに突きつけた。


—「俺は敬意には敬意で応える。

 だが、柔らかい手に隠した刃で近づいてくる者には——

 その手がまだ動いていても、もう“死んでいる”のと同じだ。」


ざわめきが走る。

村人たちは誇りに満ちた眼差しで彼を見つめ、

レイスたちは無言で武器を構えていた。


アルマンはごくりと喉を鳴らし、

“侍女”の女王イゾルデも一瞬、背筋に冷たい震えを感じた。


(この男……ただの暴君ではない。

 本物の“地獄”を知っている者の声だ。)


緊張をほぐすように、アルマンは侍女に合図を出し、

彼女は静かに木箱を開いた。


中には、エセリオン製の魔法水晶の宝飾品が輝いていた。


ハルトは一瞥しただけで、無言で手を振った。


—「金では俺を動かせない。

 これで忠誠が買えると考えたなら——

 ウンブラという国を見誤っている。」


その声音は冷え切っており、まるで映画のマフィアのように低く囁く。


—「もし本当に“友情”を望むなら……

 誠実を持って来い。

 俺は、裏切りも、仮面も——決して許さない。」


空気は、もはや斬れるほどに張り詰めていた。


アルマンはついに頭を深く下げ、

「恐れ入りました」と呟くように息を吐いた。


そしてその背後で、

侍女の姿をしたイゾルデは、無言のまま、じっとハルトを見つめていた。


(これがハルト……

 即席の王ではない。

 言葉の力を知る者——

 私と同じ、“知の支配者”。)


女王の心に、かすかな興奮が灯る。


初めて——自分と釣り合うライバルを見つけたのかもしれない。

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