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女王の駆け引き

エセリオン王宮の私室にて、

女王イゾルデは最も信頼する側近たちだけを集めていた。


—「私が“女王”として訪れれば、ハルトは見せたいものしか見せないでしょう。

 けれど、“取るに足らぬ存在”として行けば…影に隠された真実をこの目で見抜ける。」


ロルド・ヴァルクレオンが眉をひそめた。

—「陛下、変装して行かれると…?」


イゾルデはほほ笑んだ。


—「その通りです。」


彼女は、外交官として名高い老紳士、サー・アルマン・ケイリスを公式使者として選んだ。

優雅な身のこなしと、揺るぎない評判を持つ人物だ。

彼がエセリオンの“顔”としてハルトと面会する。


その一方で、女王自身は、

飾りのない白いコフィアをかぶり、質素な衣をまとった「侍女」として随行することを決めた。


顧問のセラフィーヌが不安げに尋ねた。

—「陛下、もし身元がバレた場合は…?」


だがイゾルデは静かに答える。


—「それならば…ハルトは“私の対等な敵”と呼ぶにふさわしい存在ということでしょう。」


その瞳に怒りはない。

ただ燃えるような知的好奇心だけが光っていた。


—「見たいのです。あの男がただの詐欺師なのか…それとも、私と同じ“天才”なのかを。」


数日後、外交使節団の馬車がウンブラへと出発した。


サー・アルマン・ケイリスは、重厚な礼服に身を包み、

巻物と贈り物を手に、堂々たる威厳で進んでいた。


その後ろに付き従うのは、

木箱を静かに抱える一人の少女。

飾り気のない服、結ばれた髪、

—誰がその姿から女王イゾルデと見抜けるだろうか。


ウンブラの国境に差し掛かると、警備兵たちの表情が固くなる。


ハルトの改革により、国の警戒レベルはかつてないほど高まり、

入国者はすべて厳しくチェックされていた。


テリアに所属するスペクターが、侍女に目を向けて問う。


—「名前は?」


彼女は頭を下げ、冷静に、迷いなく答えた。


—「エララと申します。サー・アルマンの侍女です。」


スペクターは数秒間観察した後、頷く。


—「通れ。」


馬車が街を進む。

燃えない光を放つ街灯のもと、

子どもたちが学校へ走り、

兵士たちが整然と訓練をし、

商人たちが笑顔で声を上げる。


女王イゾルデは沈黙の中で、外の光景を見つめていた。


—「これが…ハルトの王国。

 噂ではない…

 これは、生きている現実なのね。」


彼女は手に抱えた木箱をぎゅっと握りしめ、

目を伏せて微笑んだ。


—「ハルト…すぐに話をしましょう。

 でもその前に——

 あなたが“誰かに見られていると知らない時”、

 どんな顔をしているのか、私はこの目で見極めたい。」

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