見えない守り
保育園の朝はいつも通りに始まったが、空気にはどこか奇妙な気配が漂っていた。
ミツキは片隅でぬいぐるみのウサギと遊んでいたが、先生のアヤカがどこか様子のおかしい目で自分を見ているのに気づいた。
その目は空っぽで、まるで別人のようだった。
その背後にはレンジが黙って立っていた。口元に小さな歪んだ笑みを浮かべている。
ミツキは眉をひそめた。
—レンジ……何してるの?
少年は答えなかった。ただ、片手をゆっくりと上げると、まるで見えない命令を出すかのように動かした。
アヤカ先生がミツキに近づき、奇妙な表情で手を伸ばす。
レンジは小さな声でささやいた。
—傷つけて。
アヤカの目が赤く輝き、その手がミツキに向けて伸びてくる。
ミツキは恐怖で後ずさりし、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
その瞬間、彼女の手首に巻かれたブレスレットが琥珀色に輝き、薄いバリアを張った。
アヤカの手はその光に阻まれ、ミツキに届かなかった。
レンジの目が見開かれた。
—な……なんで……なんでお前には効かないんだ?
ミツキは震えながらも声を上げた。
—だって……わたしには傷つけられないから!
ブレスレットはさらに強く輝き、アヤカはまるで催眠から覚めたかのように困惑した表情を浮かべ、一歩後ずさった。
レンジは拳を握りしめ、怒りを抑えきれずに叫んだ。
—いつもそうだ……!いつも守られてる!いつも特別扱いばかり……!
彼の胸の中の黒い結晶が振動した。その時、彼の頭の中にアビスの声がささやいた。
「まだだ。焦るな。怒りを育てよ。
彼女はまだ手に入らぬ。だが、他の者たちは――すぐにでも。」
レンジは手を下ろしたが、その憎しみに満ちた目はミツキの心を凍りつかせた。
ミツキは動けなかった。目に涙を浮かべながら、心の中でつぶやいた。
「レンジ……もう、前のレンジじゃない……」
その頃、アヤカ先生は何もなかったかのように仕事に戻っていた。
だが、ミツキだけは気づいていた。危険はすぐそばにある。
そしてそれは、彼女以外には見えていないのだと。
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