《影に響く声》
誰もいない園庭で、レンジは自分の手を見つめていた。
胸の奥で脈打つ漆黒のクリスタルは、まるで“第二の心臓”のように彼の内側を満たしていた。
ミツキの顔を思い浮かべた瞬間、彼の指先が硬化し、まるで金属の爪のように変形する。
レンジは立ち上がり、木製のベンチに腕を向ける。
その腕を、黒い閃光が走った。
「……これも、変えられるのか?
全部、ボクの思い通りにできるのか……?」
腕に渦巻くエネルギーは、今にも放たれようとしていた。
――その時、脳内に深く、低く響く“声”が届いた。
「……まだだ。」
レンジの動きが止まる。
震える声で問い返す。
「……だれ……?」
「お前に力を与えた者だ。
だが、今はまだその時ではない。
今それを使えば……お前の“本当の力”は、無駄に終わる。」
レンジは歯を食いしばった。
「……もう使いたいんだ!
みんなに見せてやりたいんだ、ボクがどれだけ強いかを!!」
「……焦るな、レンジ。
まずは、憎しみを育てろ。
まずは、もう一度――彼らに笑われ、拒まれ、傷つけられろ。
その痛みが限界に達したとき……
お前は“止められない存在”になる。」
レンジは膝をつき、肩で荒く息をした。
黒い光は静かに腕から消えていく。
だが胸のクリスタルは、ますます強く鼓動していた。
「……ミツキ……
おまえが……最初だ。」
彼は立ち上がる。
歪んだ笑みを浮かべながら。
その胸の宝石が、わずかに光を放ち、
彼の決意に応えるかのように脈動する。
***
翌朝。
ミツキはうなされるように目を覚ました。
なぜだか分からない――
けれど胸がざわついていた。
ウサギのぬいぐるみを抱きしめながら、母の顔を見る。
「ママ……へんな夢を見たの。
レンジくんが……なんだか、すごく変だったの。」
美陽は、やさしく髪を撫でながら言った。
「それはね、夢じゃないのかもしれないわ。
ときどき、心が先に“気づいて”くれるのよ。
まだ目に見えなくても――何かが近づいているって。」
ミツキはまだ理解できなかった。
けれど、胸の奥にある“違和感”が、
はっきりと語っていた。
――レンジは変わろうとしている。
それも、きっと……“よくないほう”へ。
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