月の下で、抱きしめられた心
レディアントカフェはすでに閉店しており、柔らかな照明が店内をほんのり照らしていた。
外では最近の事件を嗅ぎつけた記者たちが周囲をうろつき始めていたが、店の中は静寂に包まれていた。
二階の窓辺に、ひとり立っているレイカの姿があった。
夜空を見上げるその目には、父親の冷たい言葉が反響していた。
「お前はいつも、弱かった」
「失望しかない娘だ」
彼女の紫の時計に映る月の光が、まるでその言葉を何度も刻むかのようだった。
拳を握りしめ、喉が焼けるように熱くなる。
——本当に…私は、それ以上の存在なの?
その問いに、まず答えたのはユイだった。
戦いの傷を隠すように腕に包帯を巻き、無言で壁にもたれかかった。
「その男の言葉より、お前の価値はずっと大きい。
私が戦い続けられるのは、お前を信じてるからだよ、レイカ。」
続いて、ミハルがミツキを抱いて入ってきた。
半分眠りかけた少女が、小さな手をレイカに伸ばす。
「おねーちゃん……かなしくないで……」
その言葉に、レイカはこらえていた涙をこぼしながらミツキを抱きしめた。
ミツキは頬にそっとキスをして、微笑んだ。
「ママがね、レイカはつよいって言ってたよ……」
ミハルはそっとミツキをソファに寝かせ、レイカの手を握った。
「いなくなった父親に証明する必要なんてない。
今ここにいる、私たちがあなたの家族よ。」
やがて、リリィとリカもやってきた。
リリィは静かにお茶の入ったトレーを置き、穏やかな声で言った。
「過去は消せない。だけど、今をどう生きるかで、あなたは決まる。」
リカはレイカの隣に座り、月明かりに照らされながら微笑む。
「私もずっと、役立たずだって言われてきた。でも、今はこうして、あなたと一緒に戦ってる。
ねえ、レイカ……あなたはもう一人じゃないよ。」
その言葉が、心の最後の壁を溶かした。
レイカはついに、声を上げて泣いた。
けれどそれは絶望の涙ではなく、ようやく見つけた安心の涙だった。
みんながそっと彼女を抱きしめる。
ミツキもその中に包まれ、小さな鼓動が全員の中心にあった。
その夜、月の光の下で、レイカの傷は癒され始めた。
“失望された娘”という重荷は、もうそこにはなかった。
今の彼女は、クロノ・エンプレス。
仲間と、居場所と、未来を持つ戦士。
腕の時計が静かに光り、
新たな始まりを刻んでいた。
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