父の執務室
レディアントカフェは静まり返っていた。
リリィが封印された黒い結晶を手にし、重い声で口を開いた。
「ヒロシの命令系統は、彼で終わっていない。
この痕跡は……会社の社長にまで繋がっている。」
レイカは喉の奥に詰まるものを感じた。
「……あの男は……私の父親。」
──
彼女たちは巨大ビルの最上階へと向かった。
広い執務室は巨大な窓に照らされ、眩しいほどに明るい。
重厚な木の机の奥に、その男は座っていた。
整ったスーツ、冷たい眼差し。まるで何も驚いていないかのように。
「現れたか、レイカ。
てっきり、惨めに自滅したと思っていたよ。」
レイカは拳を握り、震える手を押さえつける。
「消えたのは私じゃない。……あなたの方よ。」
空気が一気に張り詰める。
彼女は一歩前へ踏み出し、怒りをぶつけるように声を張り上げた。
「ヒロシに力を与えたのは、あなたでしょ!
絶望に突き落としたのはあなた。
私に“失敗作”の烙印を押したのも、あなただった!」
父親は、軽蔑した目で彼女を見下ろす。
「彼は良い社員だった。ただ……弱かった。
お前と同じだ。」
その言葉に、レイカは叫ぶように指を差しつけた。
「あなたは卑怯者よ!
部下を使い潰し、怪物に変え、娘すら捨てた。
私はあなたを、みんなの前で暴いてやる!」
静寂が執務室を覆った。
父親は腕を組み、冷たく言い放つ。
「結局、お前は変わらんな。……失望だ。」
レイカは一瞬だけ目を伏せ、涙が頬を伝った。
だが顔を上げたとき、彼女の瞳は揺るがなかった。
「たとえあなたがそう思っても……もう、どうでもいい。」
ゆっくりと近づき、彼の目をまっすぐに見つめて言った。
「私は告発なんてしない。
……あなたの罰は、もっと重い。
“自分が何者だったか”を知ったまま生き続けることよ。
娘を失い、部下を壊し、すべてを支配していたはずの人間の末路をね。」
父は答えなかった。
無表情を崩さぬまま、目の奥にだけ……拭えぬ空虚が揺れていた。
レイカは振り返り、仲間たちの元へ歩きながら、静かに微笑んだ。
「もう、あの人の承認なんていらない。
……私は、自分の道を歩いていく。」
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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。