狩る者と狩られる者の遊戯
わずかな水晶灯の灯りが揺れる書斎で、ヒロト・カナザキは静かに書類をめくっていた。
机の上には写真、地図、新聞の切り抜きが広がっている。
その傍らに、黒い影が渦を巻き、シェイドが人型の姿で現れる。
その声は低く、空気を裂くように響いた。
「お前の名は、もう彼女たちの間で重く響いている。
――お前の存在を知ったぞ。」
ヒロトは落ち着いた微笑を浮かべた。
「それでいい。
狩りというものはな…獲物が“自分が狙われている”と気づいてこそ、面白くなる。」
シェイドは煙の腕を伸ばし、都市の地図の一角をなぞる。
「彼女たちが動くとすれば、捕らえるため。
だが忘れるな――この“ゲーム”で狩人なのは、彼女たちだけではない。」
ヒロトは机に肘をつき、指先を組んで微笑む。
「来るがいい。
焦れば焦るほど、壊すのは簡単になる。」
◆ ◆ ◆
そのころ――ラディアント・カフェの裏部屋。
リリィの魔法によって、光の地図がテーブルに広がっていた。
街の各地に印が浮かび上がる中、少女たちは真剣な表情で対策を練っていた。
ユイが拳でテーブルを軽く叩く。
「絶対に捕まえよう。
これ以上、人を“駒”みたいに使わせるわけにはいかない。」
ミハルはミツキを膝に乗せながら、真っ直ぐに言う。
「彼を捕らえれば、シェイドやブラックアビスのことも、何か手がかりが得られるかもしれない。」
「私も行く。
道に隠れる奴の動きなら、読める。」
レイカが力強く頷く。
だがリリィは即座に否定した。
「ダメよ。
あなたもミハルも、今の力では彼には届かない。
ヒロトは“人間”という枠を超えつつあるわ。」
ミハルが立ち上がる。悔しげな表情を隠せない。
「じゃあ…このまま黙って待つの? 彼がまた誰かを傷つけるまで?」
だがリカが静かに、冷静に言葉を紡ぐ。
「違う。
必要なのは、真正面からぶつかることじゃない。
――“罠”を張るの。」
リリィが魔力を込めて杖を打ち下ろすと、地図が淡く光った。
「こちらの土俵に引きずり込む。
奴が“出てくる”しかない状況を作るのよ。」
そのとき、ずっと静かに聞いていたミツキが、ぽつりと口を開いた。
「……じゃあ、“ヒロトさんが欲しいもの”を使えば来るよね?」
少女たちは驚き、同時に息を飲む。
その言葉は、まさに核心を突いていた。
ユイが小さく笑いながら言う。
「……そうね、小さな天才さん。
いちばん大きな作戦を立てよう。」
その頃――闇の奥で、ヒロトとシェイドは笑っていた。
あたかも少女たちの動きをすでに見通しているかのように。
「始まったな、狩人ごっこ。」
ヒロトが冷たくつぶやく。
「どちらが“本物の狩人”か――決めようか。」
狩る者か、狩られる者か。
静かな戦火の幕が、今、ゆっくりと上がろうとしていた。
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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。