謀(たばか)る影たち
黒く塗られた壁と天井まで届く大きな窓。
その静寂な書斎の中心で、ヒロト・カナザキはネクタイを整えながら鏡に映る自分を見つめていた。
その瞳には、凍てつくような冷たさと、鋭く光る野心が宿っている。
その背後、ねじれるような黒煙が渦を巻き、シェイドの人型の影が姿を現す。
「うまくカードを切ったな、ヒロト。
だが、あの少女たちは簡単には折れん。」
ヒロトは落ち着いた笑みを浮かべる。
「折れなくてもいい。
ただ、少しずつ…確実に“壊れて”もらえればな。
街が彼女たちを疑い、孤立させる。
“正義”という名の孤島に。」
シェイドはくぐもった声で笑った。
「人間の残酷さは、やはり実に興味深い。
お前のような者が、最も危険だ。」
机の上には都市の地図が広げられており、病院、保育園、そしてラディアント・カフェを示す複数の赤い印が光っていた。
「次は――もっと深く、心に爪を立てる。」
ヒロトの声は冷たく、美しく響く。
◆ ◆ ◆
その頃――ラディアント・カフェの裏部屋。
リリィの映した記憶によって、少女たちはついに“黒幕”がヒロト・カナザキであることを確信した。
空気は重く、沈黙は怒りへと変わろうとしていた。
「だったら……捕まえるしかない!」
ミハルが勢いよくテーブルを叩き、瞳を燃やす。
「彼の口から、シェイドのこともブラックアビスの真実も……すべて吐かせてやる!」
「私も行く。」
レイカが拳を握る。
「路地裏や怪しい連中の相手なら、私の得意分野だ。」
だがリリィは、鋭く手を挙げて止めた。
「ダメ。
今のあなたたちでは、彼に太刀打ちできない。
ヒロトはもう普通の人間じゃない。
彼とアビスの結びつきは深く、力そのものが“歪んで”いる。」
ミハルは悔しそうに唇を噛みしめる。
リカが静かに口を開いた。
「……なら、“正面”じゃなくて“策”で挑もう。
力じゃなく、知恵で引きずり出す。」
ユイは腕を組み、しばし考え込んでから小さく頷く。
「罠だな。
こっちが知ってることを使って、あいつに“動かせる”ようにする。」
そのとき――
今まで黙っていたミツキが、ぽつりと口を開いた。
「……じゃあ、“ヒロトさんがほしいもの”を使えば、来るんじゃないかな?」
少女たち全員が驚いて振り返る。
だが、その言葉は確かに核心を突いていた。
ヒロトには目的がある。
それを突き止めれば――彼は自ら動く。
リリィはわずかに微笑みを浮かべ、言った。
「……一番小さな子が、一番鋭い切り札をくれたようね。
ミツキ、ありがとう。」
暗闇の中、影は蠢いている。
だがその中に、ひとすじの“光の導線”が現れ始めていた。
敵の欲望を逆手に取り、真実を炙り出す――
少女たちの“反撃”は、すでに始まりつつある。
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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。




