謀略の影
黒い壁と高い窓に囲まれた豪奢な書斎――
その中心で、ヒロト・カナザキは鏡の前に立ち、完璧に整えたネクタイを指で締めていた。
その瞳に映るのは、感情のない氷のような光と、底知れぬ野心。
背後に、ねじれた黒煙が形を成していく。
それは漆黒の影、シェイド。人の形を模した禍々しい存在。
「見事な一手だったな、ヒロト。
だが……あの少女たちは、そう簡単には折れんぞ。」
ヒロトは微笑を浮かべた。
「……折れなくても構わない。
ただ、ゆっくりと――確実に“疑わせる”。
街が、仲間が、世界が彼女たちを“異物”と認識するまでな。」
シェイドは歪んだ声で笑う。
「お前の人間的な残酷さは……実に気に入っている。」
机の上には都市地図。
真紅のマークがいくつも刻まれていた。
それは病院、保育園、そして――ラディアント・カフェ。
一方その頃――
カフェ裏の作戦室では、少女たちがリリィを囲んで議論を交わしていた。
記憶の映像が示した“ヒロトの関与”。
それは、もはや疑う余地のない事実だった。
ミハルが強く机を叩き、怒りと決意をあらわにする。
「だったら……私たちで捕まえるしかない!
シェイドのことも、ブラックアビスのことも……全部、吐かせてやる!」
レイカも強く頷き、拳を握る。
「私も行く。
ああいう裏の奴らの動きには、私の経験が役に立つはず。」
だが、リリィは冷静に、そして厳しく首を振った。
「……駄目よ。
今のあなたたちでは、彼には勝てない。
ヒロト・カナザキはただの人間じゃない。
すでにアビスとの結びつきが深く、“常識”では測れない存在になってる。」
その言葉に、ミハルは唇を噛むだけで何も言えなかった。
代わりに、リカが静かに声を上げた。
「……なら、力に頼らない方法を探そう。
彼を正面から倒すんじゃなく、“誘い出す”。」
ユイが腕を組み、思案に沈む。
「――罠か。
今ある情報を使って……自ら姿を現させるよう仕向ける。」
その時、今まで静かにしていたミツキが、小さな声で口を開いた。
「……じゃあ、ヒロトさんが“ほしいもの”を、逆に使えばいいんじゃないかな?」
その無邪気な一言に、部屋の空気が変わった。
少女たちは一斉にミツキを見つめる。
“欲しいもの”――ヒロトには目的がある。
それを突き止めれば、自ら動くしかなくなる。
リリィはわずかに微笑み、頷いた。
「……一番若いこの子が、最初のピースを見つけてくれたようね。」
ヒロト・カナザキ。
シェイドと共に影を操る男。
街を、心を、少女たち自身を“揺るがす”ことを狙う者。
だが今、彼を捕らえる逆転の“糸口”が――
一人の少女の無垢なひと言から、生まれ始めていた。
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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。