動き出す影
ラディアント・カフェの地下、リリィ専用の特訓ルームでは、空間全体が魔法によって幻想の空の下に変えられていた。
その中で、少女たちはそれぞれの力を磨いていた。
ユイは拳に炎を宿しながら、ボクシングの連続技を織り交ぜて火炎の連撃を叩き込んでいく。
リカは水のバリアを展開しながら、攻防一体の魔法コンビネーションに挑戦中。
ミハル――"アンバーハート"は、娘ミツキを守る想いを胸に、広域防御のエネルギー制御を徹底していた。
そしてレイカは、未熟ながらも着実に進化していた。
ストリート育ちの反射神経と、覚醒しつつあるブレスレットの力を交互に使いながら、機敏な動きを繰り返す。
リリィはその様子を黙って見つめながら、冷静に言葉を放つ。
「ただ戦えるだけでは足りません。
これからは“連携”がすべて。
敵は――容赦しません。」
訓練後、一同はカフェの裏にある作戦室へ移動していた。
テーブルの上には都市の詳細地図が広げられ、その中心に魔力のクリスタルが置かれていた。
「この男……」
ユイが地図の一角を指差しながら呟く。
「最後の戦闘以来、まったく姿を見せてない。」
リカが補足する。
「人混みに紛れてるのかも。姿を変えられるのなら、誰にでもなれる。」
リリィは静かに頷いた。
「ブラックアビスの力には、持ち主を“偽る”性質がある。
名前も顔も偽って、私たちの隣に潜んでいても不思議じゃない。」
ミハルは、隣にいるミツキの小さな手を握りながら、顔を曇らせる。
「つまり……ごく普通の人間のふりをしてるってこと。
近所の人かもしれないし、今日カフェに来たお客かもしれない。」
レイカは拳を握り、低く言い放つ。
「――だったら、見た目じゃなくて中身を見なきゃ。
私は……“仮面の裏”がどれほど残酷か、知ってる。」
リリィは、地図の中央に淡く光る魔法のクリスタルをそっと置いた。
「唯一の手がかりは、“結晶の残留エネルギー”。
姿はわからなくても、汚染の痕跡は消せない。」
ユイが強く机を叩いた。
「なら……幻でも幽霊でも、探し出す。
奴がどこに隠れようと――私たちが見つけてやる。」
少女たちは静かに視線を交わす。
“敵”はすでに、すぐ近くにいるかもしれない。
誰かの姿を借りて、笑顔の仮面を被ったまま。
その恐怖と覚悟を胸に――彼女たちは次の行動へと踏み出す。
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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。