カフェの晴れやかな一日
朝は、焼きたてのパンの香ばしい匂いから始まった。
ミハルはレジの準備をしながら、ほかのメンバーに簡単な指示を出していた。
ミツキは片隅でクレヨンを握りしめ、一生懸命みんなの姿を描いている。
メイド服姿のユイ、リカ、レイカ、ミハル――そして小さなエプロン姿の自分を、誇らしげに追加していた。
「ママ、見て!」
彼女は満面の笑みで絵を掲げる。
「可愛いわね……でもね、ミツキ。あなたはまだ特別なお客様なの。店員さんじゃないのよ」
ミハルは優しく微笑みながら、娘の額にそっとキスをした。
周りの皆も、そのやり取りにほっこりして笑い声をこぼす。
その光景に、着替え中のレイカも、思わず胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
最初の接客――
最初の来客が手を挙げる。
レイカは少し緊張しながらも、直立した姿勢で近づく。
「い、いらっしゃいませ……何を……要件は……?」
客は一瞬固まり、戸惑った表情を浮かべた。
すかさずユイがフォローに入る。
「えっと、うちの子が言いたかったのは――『ラディアント・カフェへようこそ! ご注文をどうぞ♪』ってことです!」
レイカは小さく唸った。
「……頑張ってるんだけどな」
それを聞いて、ミツキが拍手を送る。
「お姉ちゃん、すっごく上手だよー!」
その無垢な声に、店内のお客たちもつられて笑い、張り詰めていた空気が一気にほぐれていく。
◆ 問題児の席
昼下がり、一人の年配客が声を荒げた。
「この紅茶、熱すぎる!」
レイカは反射的に反論しそうになるが、ミハルがすっと前に出た。
「ご不便をおかけして申し訳ありません。
すぐに適温のものをご用意いたしますね。」
優雅な一礼と落ち着いた声に、客の怒気はすっと引いていった。
そして帰り際には――
「まるで天使のようだ、お嬢さん」と、なんとチップまで置いていった。
レイカはその一部始終を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……私には、あんな風にできない。」
ミハルは微笑む。
「戦うだけが強さじゃないわ。
人の声を聞いて、微笑むこと――それもまた、大切な“力”なの。」
◆ 閉店後のひととき
カフェが閉まると、みんなでお茶とケーキを囲んだ。
ミツキはすでに半分眠っており、母ミハルの膝の上で丸くなっている。
「今日は、いい一日だったわね」
ミハルは娘の髪を撫でながら、静かに言った。
「世界を救ったわけじゃないけれど、誰かに安らぎを届けることができた。」
レイカはケーキを一口かじり、ふっと息を吐く。
「……戦うより難しいけど、なんか……悪くない。」
するとユイが、肘で彼女の肩を軽く突く。
「ようこそ、普通の毎日へ。レイカ。」
リカはカップを掲げて笑った。
「私たちに、そしてこの場所に――かんぱい!」
皆が優しくカップを鳴らし合わせる。
その様子を、奥のカウンターからリリィが静かに見守っていた。
彼女は知っていた。
魔法も戦闘も必要のない、こうした何気ない時間こそが――
守るべき“絆”を育んでいるのだと。
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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。