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家に置き去りにされたもの

ラディアント・カフェでの思いがけない再会の後、リリィはカズマ・イオキを裏の応接室へ案内した。

ユイ、リカ、ミハル、そしてレイカも同行した。

普段は穏やかなその部屋にも、どこか張り詰めた空気が漂っていた。


ミツキでさえ、クレヨンを握ったまま、隅で静かに座っていた。


カズマは、複雑な思いを込めた眼差しで姪を見つめた。

優しさと痛みが、そこに同時に宿っていた。


「レイカ……家を出てから、君の消息はまるで途絶えていた。

ただ噂だけが届いてきた。街で喧嘩ばかりしてるとか、不良になったとか。

でも俺は、君がそれだけの人間じゃないって、ずっと分かってた。」


レイカは視線を伏せ、低く呟いた。


「……誰も、信じてくれなかった。」


真実の告白


カズマは深く息を吸い込み、少女たちへ視線を向けた。


「彼女の姉は、家の中で“優等生の星”だった。

両親は、ことあるごとにレイカを姉と比べていた。

“成績を見てみろ、お姉ちゃんみたいになれ”――

そんな言葉を、レイカは毎日のように浴びせられていたんだ。」


レイカは拳を握りしめ、かすれた声を震わせる。


「どれだけ頑張っても、届かなかった。

私は“レイカ”じゃなくて、姉のコピーを求められてた。」


カズマの声も、いつの間にか低くなっていた。


「学校でもひどかった。

先生も、同級生も――みんなが“姉との差”を強調していた。

姉が表彰される一方で、レイカには失望の目しか向けられなかった。」


レイカは静かに顔を上げる。

その瞳には、ずっと堪えてきた涙が滲んでいた。


「だったら……道端の方がマシだった。

誰も私を“間違い”扱いしないから。」


沈黙の重み


誰もすぐには言葉を返せなかった。

重い沈黙の中――最初に口を開いたのはユイだった。


「……弁解なんていらないよ。

私もね、毎日が戦いだったから。

どんなに踏ん張っても、何かを失っていく世界だった。」


リカもゆっくりと頷く。


「私も家族に見捨てられた身だから、少しわかる。

“居場所がない”って感覚。」


ミハルはミツキを抱き寄せながら、やさしく微笑んだ。


「誰にだって、心に傷はあるよ。

でもね――ここでは、君を一人にはさせない。」


レイカの頬を、静かに涙が伝った。

カズマがそっと近づき、彼女の肩に手を置く。


「君には、帰る場所があるんだよ、レイカ。

たとえ両親がどう言おうと、それは変わらない。」


新たな一歩


リリィが一歩前へ出た。

その声は落ち着いていたが、芯が強く、優しさが滲んでいた。


「過去は消せません。

でも、未来は――書き直せます。

ここに残る選択をするなら、もう“間違い”なんて呼ばせません。

君はこの場所の、大切な一員になる。」


レイカは小さく頷きながら、涙をこぼし続けた。

誰も彼女に「変われ」とは言わなかった。

誰も、姉の名前を持ち出さなかった。


ただ――「レイカ」であることを、受け入れてくれた。


それは、彼女がようやく手にした――本当の意味での、始まりだった。

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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。

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