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新しい自分のはじまり

その夜、レイカはラディアント・カフェの裏路地に出ていた。

肩にバットを乗せ、ジャケットの襟を首元まで閉じている。

夜風が彼女の染めた髪を揺らし、月の光が静かに照らしていた。


—「…いっそ、どこかに行ったほうがいいのかも…」

そうつぶやいた瞬間、背後から声がした。


—「どこ行くつもり?」とユイが眉をひそめる。

—「ここにいた方が安全だよ」とリカも真剣に言った。

—「外では、利用されるだけ。ここなら…居場所がある。」


ミハルも一歩前に出て、静かだがしっかりした声で言った。


—「レイカ、自分のためだけじゃない。ミツキのためにも、ここにいてほしい。」


レイカは視線を落とし、唇を噛んだ。

しばしの沈黙のあと、ユイがそっと肩に手を置いた。


—「もう逃げなくていい。…ここにいて。」


しばらくして、レイカは深く息をつき、バットを地面に落とした。


—「……わかった。残るよ。」


そのとき、ミツキが本を抱えて駆けてきた。


—「おねえちゃん、絵本読んで!」


—「…私が?」と驚いた顔のレイカ。


—「うんっ!」とミツキは嬉しそうに絵本を差し出した。


それは『ももたろう』の物語だった。

レイカは少しぎこちない声で読み始めたが、最後の部分を自分なりに変えた。

鬼たちは倒されず、心を入れ替え、村の人々と一緒に暮らすようになる…そんな結末。


—「それ!それがいちばん好きなエンディング!」とミツキが笑顔で拍手した。


読みながら、レイカの胸の奥にあたたかい何かが芽生えた。

理解。思いやり。愛情。…ずっと失くしていたと思っていたものたち。


ミツキは絵本を抱きしめながら、すぐに寝息を立てた。


ミハルがそっと入ってきて娘を抱き上げ、レイカに頭を下げた。


—「ありがとう。あの子にとっても…私にとっても、大切な時間だった。」


扉が静かに閉じられ、レイカは一人きりに。


壁にかかる古びた鏡に、今の自分が映っていた。

泣きはらした目、落ちかけたメイク、そして疲れた顔。


けれど、リリィの言葉が脳裏をよぎる。


「あなたの心は、自分の行く道を知っている。」


今度は、目をそらさなかった。


翌朝


朝日がカフェを照らし始めた。

眠そうなユイがキッチンに入り、リカがあくびをしながら続き、ミハルはエプロンを結んでいた。


しかし、食堂に入った三人が、思わず足を止める。


—「えっ……?」とユイがつぶやく。


そこにはすでに、テーブルに座ってお茶を飲んでいるレイカの姿があった。


髪は染め直され、自然な黒に近い落ち着いた色。

派手なメイクもなく、表情はどこか穏やかで…年相応の少女のようだった。


リカがそっと笑みを浮かべた。


—「…ついに、本当のレイカに会えた気がする。」


レイカは恥ずかしそうに目をそらしながらも、しっかりと挨拶をした。


—「…おはよう。」


その一言が、彼女の新たな人生の第一歩となった。

もしこの章を気に入っていただけたなら、ぜひお気に入り登録、いいね、あるいはコメントで応援してもらえると嬉しいです!








ほんの一言でも、皆さんの言葉は、私が物語を書き続ける大きな力になります。




これからも、心を込めて紡いでいきますので、よろしくお願いします!

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