アビスの操り人形
胸に埋め込まれた黒き結晶が完全に融合し、レイカの腕や首筋に暗黒の脈が走った。
かつて温かみを帯びていた茶色の瞳は、今や深紅に輝き、
その手に握られた金属バットは、影と鋼の混じったような漆黒の大鎌へと変貌していた。
レイカは荒く息を吐き、新たな力に体を満たされながら、
自身のものでないような、歪んだ笑みを浮かべた。
屋上の上――
ヒロトは手を差し伸べ、まるで糸を操る人形師のように言い放つ。
「もうお前は俺のものだ。さあ言え… 誰に従う?」
「…あなたに。」
その声は空虚で機械的だった。
そのとき、シェイドの影がゆっくりと実体化し、
その不気味な姿を現す。漆黒のマントに覆われた、非人間的な顔。
「こんな駄犬を街のチンピラ狩りに使うのは無駄だ」
冷ややかに吐き捨てるように言った。
ヒロトは眉をひそめた。
「……では、どう使えと?」
シェイドの口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「お前の上司。今日は金融街で非公開の会議を終えて帰るはずだ。
この“レイカ”にそいつを殺させろ。
容疑はすべて“無差別な不良少女の犯行”として処理される。
そうなれば、お前には後釜の椅子が与えられ、人間社会への我々の浸透も加速する。」
ヒロトの目が大きく見開かれた。
だが、すぐに冷笑が唇に戻る。
「フッ……見事な計画だな。
“道を外れた少女”を、完璧な武器にするとはな。」
シェイドは静かにレイカの方を向く。
そこに立っているのは、もはや少女ではなかった。
意思を失い、命令を待つ兵器――
「アビスの操り人形よ。
お前の最初の任務は、今の“雇い主”を殺すことだ。」
レイカは首をかしげるようにゆっくりと頭を下げた。
その声は氷のように冷たかった。
「……了解。遂行する。」
重苦しい沈黙が路地裏に落ちた。
“ブラックアビス”は、ただ混沌を撒き散らすだけではなかった。
今、彼らは人間社会の中枢にまで静かに牙を突き立てようとしていた――。
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