レイカを見つめる影
ケーキと紅茶を食べ終えたレイカは、席を立った。
「ごちそうさま。」
そう呟きながら、ポケットから小銭を取り出そうとした。
だがリリィがそっと彼女の手に触れ、それを制した。
「けっこうよ。うちからのサービスと思って。」
レイカは眉をひそめたが、何も言わずにうなずいた。
軽く手を振って店を出る。
朝の風が彼女を迎え、街の喧騒とともに包み込む。
肩にバットをかけながら歩きつつ、リリィの言葉を思い出す。
「あなたの心は、どこへ向かうかを知っているわ。」
「……はっ。」
レイカは小さく舌打ちする。
「みんな、自分のことみたいに語るのが好きよね。」
だが、その言葉はどこか胸に刺さって離れなかった。
認めたくはないが、ずっと心の奥にひっかかっていた“心配”という感情が、今は重くのしかかっていた。
そのとき──
路地の角に差しかかると、数人の男たちが待ち伏せていた。
以前、レイカに倒されたチンピラたち。
だが今回は、倍以上の人数がいた。
「いたぞ、バット女!」
一人が叫ぶ。
「この前の借り、返してもらうぞ!」
レイカは歯を食いしばり、ジャケットをきゅっと握る。
「……本気でビビるとでも?」
バットを構え、挑発するように笑った。
「相手してやるよ、時間ならある。」
躊躇なく飛び込む。
バットが唸り、敵を一人また一人と倒していく。
だが数は多く、動きが鈍るごとにじりじりと押し込まれていく。
その戦いを、遠くビルの屋上から見下ろす影があった。
神崎ヒロト。
鋭く光る目に、不敵な笑みが浮かぶ。
彼の傍らで、闇の中から声が響いた。
シェイド──その存在は姿を持たないが、確かにそこにいる。
「……強いな。見た目以上に。」
ヒロトはうなずいた。
その目に宿るのは、獲物を見る捕食者の光。
「ああ。だが、俺たちの手に落ちれば……もっと“使える”。」
シェイドの声がささやく。
「絶望まで追い込めば、あの娘が抱える“憎しみ”が扉を開くかもしれない。
……“ブラックアビス”への扉を。」
ヒロトは手すりに手をかけ、唇を歪めた。
「いいさ。好きに“正義ごっこ”をさせてやろう……そのうち、こっちのコマになる。」
地上では、レイカが息を切らしながら戦っていた。
自分がただのチンピラ相手に苦戦していると思っていた。
だが、彼女はまだ気づいていなかった。
──今、自分が闇の勢力の標的になっていることに。
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