お茶を飲みながらの問いかけ
ラディアントカフェの店内には、静かな空気が流れていた。
レイカ・イオキは腕を組んだまま、ジャケットを脱がずに座っていたが、
リリィが差し出した紅茶とケーキはしっかり受け取っていた。
ツンとした態度を崩さずにいようとしていたが――その空腹が、すべてを語っていた。
カウンターの奥、リリィは変わらぬ優雅さで彼女を見つめていた。
多くを語らないその目は、相手の心を見透かすように澄んでいた。
静かにリリィが問いかけた。
「……それで、夜な夜なバットを持って歩いてるの？」
レイカは一瞬眉をひそめたが、すぐに不機嫌そうに返した。
「だから何？ 誰かがやらなきゃ、弱い人がやられっぱなしでしょ。」
ユイが体を乗り出し、片眉を上げて言った。
「“不良”って噂されてるけど？」
レイカは鼻で笑った。
「弱い人を守るのが不良なら、私は喜んでそう呼ばれるよ。」
すると、リカが少し興味深そうに口を開いた。
「ケガするの、怖くないの？」
紅茶を一口飲んでから、レイカは淡々と答えた。
「怖がって何になるの？ 骨が折れても、何もしないよりマシ。」
その一言に、ユイたちは一瞬言葉を失った。
ミハルはカウンター越しに静かに彼女を見つめていた。
昨晩カズマが話していたことが、頭をよぎる。
やがて、そっと声をかけた。
「……カズマさん、あなたのこと心配してたよ。」
レイカの指が、ふとバットを強く握った。
その目には、かすかな苦さが浮かんでいた。
「……あの人に何が分かるの？ 誰も私のことなんて分からない。」
店内に一瞬、重たい沈黙が落ちる。
その空気を破ったのは、再びリリィだった。
柔らかくも、芯のある手つきでテーブルに手を置き、微笑みながら言った。
「みんな分からなくても――自分の心は、知っているでしょう？」
レイカは目を上げた。どこか戸惑ったような表情。
その目に、リリィは静かな確信を湛えていた。
「勇気があるのは、よく分かる。でも大事なのは――その勇気を、どこに向けるか。」
「運命は、最初から姿を見せるわけじゃないのよ、レイカさん。」
返事はなかった。
レイカはただ、黙って湯気の立つカップを見つめた。
けれどその心の奥では、リリィの言葉が確かに響いていた。
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