麗華(レイカ)の夜
部屋は狭く、東京郊外の月額賃貸マンションの一室だった。
吊り下げ式のライトが、散乱した服や空のビール缶、ぐしゃぐしゃの布団を照らしていた。
隅には金属バットが壁に立てかけられており、まるで彼女の一部のように静かに存在していた。
イオキ・レイカは布団の縁に座り、染めた髪が黄色い灯りに照らされて輝いていた。
スマホを手に取り、画面を点けるとTikTokとTwitterの通知が大量に来ていた。
路地裏での喧嘩の動画が拡散されている。
「“不良の正義の味方”…ね」
苦笑を漏らしながら呟く。「別にどう呼ばれようと気にしないし」
スマホの画面を消すと、カップラーメンの蓋を開けた。
湯気が立ち上り、部屋に煙草と化学調味料の匂いが混ざる。
無言でラーメンをすすりながら、机の上に置かれた一枚の古い写真に視線を送った。
そこには、彼女と両親、そして姉が一緒に写っていた。
「…昔は、こんなだったな」
唇をかみしめ、視線を外す。
食べ終わると立ち上がり、黒いレザージャケット、スリムなジーンズ、ブーツを身につける。
バットを肩に担ぎ、玄関の扉を開けた。
夜の街はネオンと看板の光で濡れていた。
近くの路地では、数人のチンピラが痩せた青年を囲んでいた。
「財布出せって言ってんだよ。わかってんだろ?」
レイカは舌打ちした。
「…またか。ホント学ばないね、こういうの。」
ゆっくりと歩み寄りながら言い放つ。
「彼が悪いわけじゃない。クズなのはあんたら。」
男の一人が振り返り、ニヤついた。
「誰だよお前、調子乗んなよ?」
だが、レイカの返答より先に、金属バットが地面を叩く音が響いた。
カツン!
「…その歯、今から折ってやるよ。」
青年はその隙に逃げ出した。チンピラたちがレイカに飛びかかるが、彼女はもう構えていた。
一撃一撃が正確で、怒りと信念が混じったような動きだった。
「不良」と呼ばれても、彼女の中の「正義」は揺らがなかった。
弱き者を、決して踏み潰させない――それが、彼女の戦い方だった。
やがて路地にチンピラたちの呻き声だけが残った。
バットを肩に担ぎ、レイカはゆっくりと歩き出す。
「正義だろうが不良だろうが、どっちでもいい。
あたしの生き方を、誰にも決めさせない。」
刑事・タケダの夜
警視庁の一室。机の上には最近の事件の資料が山積みだった。
破壊された保育園、機械の怪物と化した保育士、そして目撃者が語る「魔法の少女たち」。
夜の静寂が窓から忍び込み、蛍光灯の唸る音と、ペンを走らせる音だけが部屋に響いていた。
その時、ドアが開いた。
現れたのはタケダ刑事の上司――くたびれたスーツを着た体格のいい男だった。
「…タケダ。まだやってたのか。」
タケダは顔を上げずに答える。
「放っておけない。パターンがあるんです。
どの事件にも、“あの少女たち”が現れて、怪物と戦っている。」
上司は腕を組み、壁に貼られた写真の群れを見る。
「聞いてるよ。“魔法戦士”だの、“ラディアントなんちゃら”だの。
…お前はどう思う? 味方か、それともまた新たな脅威か?」
タケダは椅子にもたれ、溜息を吐く。
「正直、まだわからない。
だが奴らが相手にしている“怪物”は、人間の手に負えるものじゃない。
一番気になるのは――」
彼は保育園跡地で見つかった**“結晶”の拡大写真**を指で軽く叩いた。
「これが、どこにでも現れているってこと。
つまり――次は、誰でも巻き込まれうる。」
上司の表情が引き締まる。
「なら、お前の仕事は二つだ。
ひとつ、これらの“結晶”がどこから来てるのか突き止めること。
もうひとつ、“彼女たち”の正体を探ること。
何かあれば、世間が怪物だけじゃなく、彼女たち自身を疑い始める。」
タケダはゆっくりと頷いた。
「…了解しました。」
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