反逆の正義の味方――ラディアント・カフェの夜にて
時計の針はまもなく真夜中を指そうとしていた。ラディアント・カフェはすでに閉店し、店内の照明は消されており、通りから差し込むほのかな光だけが窓を照らしていた。
ミハルとユイは裏口からゴミ袋を手に出てきた。冷たい夜風が肌をかすめ、一瞬だけ街は穏やかに感じられた。
――今日も長かったね… ――ユイが腕を伸ばしながらため息をつく。――保育園のことの後だと、静けさが逆に不気味に感じる。
――うん… ――ミハルがコートを直しながら応じた。――でも、これは偽りの静けさよ。わかってるでしょ。
そのとき、男たちの声が静寂を破った。角を曲がって現れたのは、酒瓶を手にふらつく三人の酔っ払い。アルコールの臭いが空気を染めるほど強烈だった。
――おい、かわいこちゃんたち…こんな夜にどこ行くの? ――と、ひとりが歪んだ笑みで言った。
――こんなとこに二人の美女…運命ってやつかな? ――もう一人が距離を詰めてくる。
ユイとミハルは無視して、ゴミ捨て場へと歩を進めた。
――行こ、ユイ。関わらないで ――ミハルが小声で言った。
だが、その無視が酔っ払いの怒りに火をつけた。
――ああ? 無視かよ!? ――最初の男がミハルの腕を掴んだ。
――キスくらい、いいだろ? ――もう一人がユイに顔を近づける。
その瞬間、鋭い声が場を切り裂いた。
――離れなさい、クズども!
路地の入り口に、ひとりの少女が現れた。髪は青みがかった色に銀の毛先、瞳は怒りに燃える茶色。全身を黒でまとめ、革のジャケット、ぴったりとしたジーンズ、ブーツ。手には金属バットを持ち、その重みを肩に乗せた。
――聞こえなかった? 離れなさいって言ったの。
酔っ払いは振り返り、ひとりが呟いた。
――なんだ、コイツ…
ミハルとユイは身構えながらも、その少女に引き込まれるように視線を向けていた。彼女の存在は、闇の中に灯る火のようだった。
男たちが反応するより早く、彼女は一歩を踏み出した。バットを地面に置くと、素手で殴りかかった。
――言ったでしょ、触るなって!
最初の男を拳で殴り飛ばし、ゴミ箱に叩きつけた。次の男が彼女を掴もうとしたが、腹に蹴りを受けて崩れ落ちた。最後の男が酒瓶を振り上げたが、彼女の肘打ちが顔面を直撃し、そのまま地面に倒れ込んだ。
ユイとミハルは目を見開いて彼女を見つめた。少女は肩で息をしていたが、それは恐れではなく、怒りを抑える呼吸だった。振り返って二人に声をかける。
――大丈夫?
ミハルはまだ緊張しながらうなずいた。
――うん…ありがとう。
ユイは小さく笑みを浮かべた。
――あんな奴らに立ち向かえる子、なかなかいないよ。
少女はバットを拾い、肩に乗せて言った。
――女に手を出すクズは許せない。ただ、それだけ。
そのとき、カフェの裏口が開き、リリィ、リカ、そして目を覚ましたミツキ(ぬいぐるみのウサギを抱えて)が心配そうに駆け寄ってきた。
――何があったの? ――リリィが鋭い目で倒れている男たちを見ながら尋ねた。
ミハルが状況を簡潔に説明する。リリィはその少女をじっと見つめ、何かを見極めるような目を向けた。
少女は首を横に振った。
――礼なんていらないわ。誰だってやるべきことをしただけ。
そう言って、背を向け歩き出す。バットを肩にかけたまま、無言で去ろうとした。
――待って! ――ユイが声をかけたが、少女は片手を上げて応えるだけで、街の光の中へと姿を消していった。
路地には静けさが戻った。リカが眉をひそめながらつぶやいた。
――あの子…誰だったの?
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