嵐のあと
夜が街を包んでいた。ラディアント・カフェは閉店しており、灯りは落とされ、外の通りのかすかなざわめきだけが静寂を破っていた。二階の部屋の一つで、美陽はベッドに座り、膝の上に田中ミツキを抱えていた。
少女はすでに目を覚ましていて、目をこすっていた。
――ママ…あの悪い人形はどうなったの?
ミハルは娘の琥珀色の髪を撫でながら、まだ胸に残る感情の余韻を感じていた。
――もういないわ、ミツキ。私たちが倒したの。もう大丈夫よ。
ミツキは疲れた笑顔を浮かべ、ぬいぐるみのウサギを抱きしめた。
――来てくれるって思ってた…だってママは強いもん…ほんとのヒロインみたいだもん。
その言葉は、光のようにミハルの胸を突き抜けた。すべての痛み、涙、長い夜の努力と犠牲が、この瞬間のためにあったのだと感じた。娘は、母親としてだけでなく、守る者として自分を見てくれていたのだ。
――完璧じゃないけど…絶対にあなたを守る。何があっても ――とミハルはささやき、頬を涙が伝った。
少女はミハルの腕の中で身を寄せ、目を閉じて微笑んだ。
――わかってるよ…だってママだもん…それに、今はもうヒロインなんだもん。
ミハルは強く抱きしめ、窓の外に輝く月を見上げた。琥珀色のブレスレットが、まるでその言葉に応えるように微かに光っていた。
そのとき彼女は悟った。自分の使命はもう「アンバーハート・ガーディアン」として戦うことだけではない。娘が平和に育つことのできる世界を守ること――それこそが本当の使命なのだと。
暗いアパートの一室で、ヒロトは壁にもたれ、授かった力で目を輝かせていた。シェイドの声が頭の中に響く。冷静で計算された声だった。
――今日は部分的な失敗…だが、同時に成果もあった。奴らの力を測れた。
ヒロトは冷たい笑みを浮かべた。
――確かに強い…だが無敵ではない。そしてミハルがあの子たちと一緒に戦っている。ならば、なおさら潰す理由ができた。
――焦るな ――シェイドが応じた。――必要なのは怒りじゃない、正確さだ。やつらの弱点は明白――愛する者たちだ。そこを突けば、崩れる。
ヒロトはうなずき、ジャケットの襟を整えた。
――じゃあ、近いうちに動くさ。でも次は…情けなんてかけない。
病院にて ―― 警察の捜査
そのころ、区立病院ではまったく異なる空気が流れていた。数人の警官が集まり、襲撃によって負傷した者たちについての情報を整理していた。
武田刑事が足音高く部屋に入り、保育園の被害者に関する医療報告書を確認していた。何人かの子どもはまだ眠っており、人形のエネルギー波の影響を受けていた。
医師が一つのファイルを手渡した。
――刑事、これが報告書です。ケガの程度はさまざまです――打撲、煙の吸引などですが、命に関わるものではありません。ただし… ――声を潜めて続けた。――一部の目撃者が、あの化け物と戦っていた三人の女性の姿を見たと言っています。
武田は眉をひそめた。
――あの映像に映っていた少女たちか。
そばにいた警官が口を挟んだ。
――はい。報道では“マジカルウォリアーズ”とか呼ばれてます。ヒロイン扱いするメディアもあれば、危険視する声もあります。
武田は報告書をパタンと閉じた。
――呼び名なんてどうでもいい。重要なのは、あの化け物たちは自然発生じゃないってことだ。誰かが操ってる。そしてその正体がわかるまでは、誰も安全じゃない。
彼は病院の窓の方を見て、街の明かりを眺めながら言った。
――そしてあの少女たちとも…いずれ話す必要があるだろうな。
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