「心に刺さる棘」 2
カフェは静まり返っていた。
客たちはすでに帰り、朝の太陽が窓からやわらかく差し込んでいた。
ユイとリカは、隅のテーブルでミハルの隣に座っていた。
ミハルはスカートを強く握りしめていた。
赤くなった目と震える手が、心の痛みを物語っていた。
「ミハル…」
リカがそっと身を乗り出し、低く問いかけた。
「…あの男は誰だったの?」
ミハルは唇を噛みしめ、涙をこらえようとしたが、
もう我慢できなかった。
「…あの人の名前は神崎ヒロト。高校のときに出会ったの。」
その声は震えていた。
ユイとリカは黙って耳を傾けていた。遮らず、静かに。
「最初は…他の人と違うって思ったの。お金持ちだったけど、優しくて。
『君は特別だ』って言ってくれて…信じちゃった。
私は彼を…心から愛してた。」
涙が頬をつたって流れる。
ミハルは自分の体を抱くように腕をまわした。
「でも、高校の卒業前に妊娠してるってわかって…。
両親は、彼に責任を取らせようとした。裁判も考えてた。
でも彼の家はお金持ちで、コネがあって…結局、守られたのは彼だった。
私は…ひとりで背負うしかなかった。」
リカは口元に手を当てた。目を見開いて、震えた声で言った。
「…そんな…ひどすぎる。」
「両親は辛かったと思う。でも…私を支えてくれた。
母として生きていくことを教えてくれた。
掃除の仕事、レストランの仕事、何でもやった。
そしてある日…小さな命が生まれたの。」
ミハルは涙をぬぐい、うっすらと笑った。
「どんなに辛くても、どれだけ傷ついても…後悔はしてない。
ミツキを産んだこと、それだけが…私の光。
私の宝物。彼女がいるから、私は前を向ける。」
ユイは拳を握りしめ、うつむいたまま低くつぶやいた。
「…あの野郎…絶対許さない。」
リカは涙を浮かべながら、ミハルの手をやさしく取った。
「…ミハル、本当にすごいよ。
あんな辛い経験をして、それでも笑ってる。
娘さんのために生きてる…それだけで、誰よりも強い。」
ミハルはすすり泣きながら、静かにほほえんだ。
「ありがとう…誰かに、ちゃんと聞いてもらえたこと…
それだけで、心が救われるの。」
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