静かな朝
朝焼けが黄金色にカフェ「ラディアント」の窓を染め、店内をまるで家庭のような温かさで満たしていた。甘いパンの香りと淹れたてのコーヒーの匂いが空気を包み込み始めていたが、まだ開店前の静けさが漂っていた。
奥の部屋では、ミハルがゆっくりと目を覚ました。
前日までの疲れが体に残っていたが、それでも彼女の顔に笑みが浮かんだ。理由は一つ――
まだ眠っているミツキが、ぬいぐるみのウサギを抱いて幸せそうに寝息を立てていたから。
「起きて、ねぼすけさん…」
そっと髪を撫でながら、ミハルが優しく囁いた。
ミツキはもぞもぞと身をよじり、毛布の中に顔を隠した。
「ママ…あと5ふん…」
ミハルはくすっと笑った。
「5分ならいいけど…ミツキの場合は、いつも20分になるでしょ」
そう言って抱き上げ、廊下のバスルームへ連れていった。
湯気がすぐに部屋を包み込み、ミツキは頭にお湯がかかった瞬間、目を開けて笑い出した。
「ママ、あったか〜い!」
入浴後、ミハルはふわふわの白いタオルで娘を拭き、
淡いピンクのワンピースに白いタイツ、うさぎのバックルがついたエナメルの靴を履かせた。
木箱から、彼女が大切に保管していたアクセサリーを取り出す。
小さな花のカチューシャと、星型のブローチ。
「今日はこれをつけようね」
愛情をこめて手早く装着する。
ミツキは鏡の前でくるりと回り、顔を輝かせた。
「ママ、わたし…おひめさまみたい!」
「いいえ、ミツキ…あなたはママの本物のプリンセスよ」
ミハルは額にキスをして微笑んだ。
ミツキは笑いながら手を引いた。
「いこっ!みんなまってるよ!」
小さな足取りとともに、二人は朝の日差しが差し込む廊下を歩き出す。
朝食後、ユイとリカもメイド服姿で階下に降りてきた。
ミハルはミツキの手を引き、彼女のうさぎ耳のついたピンクの通園バッグを整えた。
「準備はいい?プリンセス」
ミハルは膝をついてカチューシャを直しながら尋ねる。
「うん!おともだちつくるの!」
ミツキは元気いっぱいに跳ねた。
3人は街角の保育園へと歩き出す。
その園は、カラフルな壁画と花の飾りが印象的な、素朴で温かみのある場所だった。
リリィは少し離れた場所から、その様子を見守っていた。
「いってきまーす、おねーちゃんたちー!」
そう言って笑顔で園に入っていくミツキを見送り、誰もがほっと息をついた。
リリィは静かに口を開いた。
「…これでやっと、次に進めるわね」
彼女の視線は鋭く、それでもどこか優しさが残っていた。
リリィはそのまま黙ってカフェへと戻っていった。
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