表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/78

鋼の影と双炎

午前の陽射しがやわらかく街に降り注ぎ、建物を温かな色に染めていた。

しかし、その光景とは裏腹に、三人の胸には張りつめた緊張があった。

弁当を片手に、由依、リカ、美春は人混みを抜けながら、通り、窓、影を一つひとつ探る。


「こっちは何も…」

リカが狭い路地をのぞき込みながらつぶやく。

「そっちもだ」由依は唐揚げを飲み込みながら答えるが、味わう余裕はない。

美春は落ち着いた様子でバッグを持ち直した。

「…もしかして、考えすぎなのかも。ただの空振りかも」


その言葉が終わるより早く、由依のポケットで携帯が震えた。

「…リリー?」


受話口から響くのは守護者の凛とした声。

『何か反応は?』

「いや…妙に静かで、何もなかったみたいだ」


一瞬の沈黙が、警告のように重く響く。

『油断しないで。ブラックアビスは隠れるのが得意。動く時は、強く欲するものを見つけた時よ。警戒を怠らず、探索を続けなさい』

「了解」由依は答えて通話を切ったが、その口調には待ちくたびれた苛立ちが滲んでいた。


――そのころ街の別の場所では。


灰色のスーツを着た男が、公園のベンチに腰掛けていた。

一見すれば休憩中のサラリーマン。しかし、呼吸の一定さや無駄のない動きは、どこか不気味な正確さを帯びている。


男――黒田タケシは、寄生結晶が体の内側から変貌させた宿主だった。

その力の鼓動を、筋肉の隅々まで感じている。もう完全な人間ではない…そして、それが心地よかった。


「試してみたくなるじゃないか…」

口の端にかすかな笑みを浮かべ、目は無防備な獲物を探す。


視線の先には、手をつないで歩く若いカップル。白いワンピースの女性が無邪気に笑い、青いジャケットの男がそれを優しく聞いている。

世界から切り離された二人――それは、タケシにとって格好の口実だった。


彼の影が地面を這い、じわじわと二人の足元へ伸びていく。

その闇が触れた瞬間、女性の笑い声は途切れた。


「少し遊ぼうか…」タケシは猫のような静けさで立ち上がった。


空気が重くなる。

金属がはじける音――ガキン…ギチ…ギシィ!

二人の肌の下から機械の装甲板が突き出し、関節はピストンと歯車に置き換わっていく。

瞳の光は血のような紅に染まり、生気は消えた。


「…かあ…さ…」女の口がかすかに動くが、声は金属的なノイズへと変質した。


それはもはや狩猟機械。背から生えた複数の腕が、武器のように回転し、周囲を切り裂く準備を整える。

タケシは芸術家のように満足げに見つめた。

「見事だ…変換は完璧だ。さあ…動け」


――一方そのころ。


由依が急に立ち止まり、全身の感覚を尖らせた。

「…リカ、感じたか?」

「ええ…空気が急に重くなったみたい」

美春は肩を抱き、冷たいものが背を走る感覚に震えた。

「まるで何かが体をすり抜けたみたい…」


再び由依の携帯が鳴る。

『北へ五本先の通り。ブラックアビスの強い反応。急ぎなさい』リリーの声は鋭く短い。

「了解」


由依は駆け出し、リカ、美春が後に続く。逃げ惑う人混みをすり抜けながら、叫び声が大きくなっていく。

金属のぶつかる重い音が混じり、耳を圧迫する。


最後の角を曲がった瞬間、視界を衝撃が貫いた。

紅い眼をぎらつかせた機械化の怪物が二体、複数の腕を振り回し、車両を破壊している。

煙の向こうには、両手をポケットに入れたまま冷ややかに立つタケシの姿。


「…やっぱりお前か」由依の視線が鋭く突き刺さる。

「そうだ。そしてお前たちは…次の実験台だ」


「チェンジ! フィストアップ!」

「ホープストリーム!」


真紅と水色の閃光が通りを満たし、煙を押しのける。

由依の赤いポニーテールが炎のように揺れ、白と赤のスーツが熱を放つ。

リカは青いツインテールを揺らし、赤と黒のドレスをまとい、杖を構えた。


「ブレイズフィスト…燃やし尽くす!」

「ストリームプリンセス…全部洗い流す!」


一体が由依に迫る。由依は寸前で身を沈め、クリムゾン・ブレイクパンチを叩き込むが、押し返すのがやっと。


リカは水の壁を立てる。

「アクア・シールドバースト!」

液体の障壁が民間人を守り、避難の隙を作る。


だが敵は卑劣だった。救えば別方向から襲う、消耗戦だ。


「持たない!」リカが叫ぶ。

「誰も傷つけさせない!」由依は再び前へ。


後方で、タケシは冷ややかにその光景を見つめる。

「いい…救出に手間取っている間に、俺は消える」

背を向け、煙の中に姿を消した。


「逃げた!」由依は歯噛みするが、怪我人の頭上に鉄骨が落ちかけている。


「アクア・スパイラルガード!」

水の渦が鉄骨を弾き飛ばす。


由依の胸に、燃えるような力が湧き上がる。

「ブレイジング・コメットストライク!」

炎に包まれた拳が敵の胸を貫き、倒れ込ませた。


二人は力を合わせ、叫ぶ。

「コンビネーションアタック!」

「ラディアント・ツインバースト!」


光の爆発が通りを包み、消えた時には、機械化は解け、人々は気を失ったまま横たわっていた。


肩で息をする二人。

「…やったね」リカがかすかに笑う。

「でも…奴は逃げた」由依はタケシが消えた方角をにらんだ。

この章を楽しんでいただけたなら、ぜひお気に入り登録とポイントをお願いします。

皆さんの応援が、この物語を続ける力となり、より多くの読者に届ける支えになります。

由依とリカのこの戦いに最後まで付き合ってくれて、本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読むと時間があっという間なほど面白かった
2025/09/03 10:21 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ