待ったなし
戻ってきたとき、レストランのドアベルがやわらかく鳴った。
リリーはカウンターでカップをゆっくり拭き、ミツキは紙に絵を描いていた。
—まあ…迎えに行く手間が省けたわ —声を荒げずにそう言うが、その口調からは、彼女が二人の行き先をすでに把握していたことが伝わる。
ユイは唾を飲み込み、一歩前へ出て、ぎこちなくも頭を下げた。
—ごめん…感情的になった。
リリーは数秒間、永遠にも思える沈黙でユイを見つめ…そしてわずかに笑みを浮かべた。
—謝罪は受け入れるわ…でも、自分に正直になりなさい。私やリカにじゃない、自分自身に。そしてそれは、あんたが準備できたときにしかできないことよ。
予想外の言葉にユイは目を見開いた。
—…わかった。
リリーがパンと手を叩く。
—よし、それじゃあ気持ちを切り替えて。明日からじゃなく、今日から訓練よ。
リカは一歩後ずさる。
—え? だって今戻ったばかり…!
—敵は待ってくれない —リリーは片目をつむり、合図する—。さあ、行くわよ。
一瞬でレストランの壁が消え、再び訓練場へ。開放的な道場で、暖かな光が差し込み、磨き上げられた木の床と複数の戦闘用マネキンが並んでいる。
—美春、あなたは護身を中心にやるわ。難しい技は不要、緊急時に即反応できる程度でいい —リリーは構えながら説明する。
美春は唾を飲み込み、姿勢を真似た。
その間、ユイとリカは中央へ連れられる。
—さて、二人とも…さっきの戦いを磨くわ。ユイ、力はあるけどパターンに頼りすぎ。リズムを読まれたら終わりよ。
—チッ…わかってる —ユイは拳を構える。
—だから、不規則な速度を身につけなさい。予測不能な連撃よ。
訓練が始まる。魔法で動くサンドバッグが、不規則に加速・減速を繰り返す。リズムを掴んだと思った瞬間、急に方向を変える。額に汗が流れ始める。
—もっと速く、ユイ! ダンスじゃない、命を懸けた戦いよ —リリーの声が響く。
別の場所では、リカが光るルーンの刻まれた木製マネキンの前に立っていた。
—防御魔法は悪くないけど、相手の方が力が上なら受けるだけじゃ無意味。守りながら反撃するのよ。
リカは杖を掲げる。
—ホープ・バリア…インパクト・バースト!
光の盾が展開され、その表面から衝撃波が走り、マネキンを押し飛ばす。
リリーは満足そうに頷く。
—いいわ、防御が攻撃にもなるって理解してきたじゃない。
美春は息を切らしながら、掴まれた手を振りほどく練習を繰り返す。リリーは体勢が崩れるたびに直す。
—力じゃなくて方向、美春。手首を回して、重心を落として…そう。
やがて道場の光がゆっくりと落ちていく。リリーは腕を組み、微笑んだ。
—今日はここまで。でも油断しないこと…これがまだウォームアップだってこと、忘れないで。
リリーが託児所から戻って数分後、彼女たちは着替えるために部屋へ上がった。
ベッドの上には、きちんと畳まれたメイド服が置かれていた。
ユイは少し警戒しながら自分の服を手に取る。
それは白地に赤い装飾が施されたショート丈のドレスで、裾にはレース、胸元には小さなリボン。真っ白なエプロンには、バラと交差した剣のレストランの紋章が刺繍されている。
—これ着るなんて信じられない… —と呟くが、内心では悪くないと思っていた。
一方のリカは大喜びだった。
彼女の制服は黒地に銀のアクセント、プリーツスカートに細かなレースのエプロンが腰を引き締める。水色のリボン付きの小さなミニハット型カチューシャが髪に映え、整えられたツインテールとよく似合っていた。
—これ可愛すぎ! 気に入った! —と言いながら鏡の前でくるりと回り、スカートを揺らす。
美春はため息をつきながら、白と黒のクラシックな制服に袖を通す。丈はやや長めで、ふんわりとした袖、首元には緑のリボン。真面目な表情に、服が上品さを添えていた。
—まさかまたこういう服で働くことになるなんて… —と言いながらカチューシャを整える。
その時、リリーが点検のために部屋へ入り、腕を組んで満足げに微笑んだ。
—完璧。スカートは清潔、エプロンはしっかり固定、髪もきちんとまとめてある。いい? ここはただ料理を運ぶ場所じゃない、雰囲気を作る場所よ。
ユイは鏡を最後に一瞥し、エプロンのレースに引っかからないようポニーテールを整える。
—私、これに慣れられるかな… —と小声で漏らす。
—すぐ慣れるって —リカが軽く肘でつつき— もしかしたら案外楽しいかもよ。
リリーは意味深な笑みを浮かべた。
—ええ…間違いなく楽しくなるわよ。
どうやら私たちのRadiant☆Magical Warriorsは、ついに制服の準備が整ったようです…
しかし、Fantasy Feastでトラブルを起こさずに任務をこなせるのでしょうか?
次回は、彼女たちの「メイド魔法戦士」としての初日が描かれます…そして、その一日はコーヒーを運ぶだけでは終わりません。
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それでは、次のエピソードでお会いしましょう!