「最後のチャイムは、私のためじゃなかった」
時に、式というものは別れではなく…
最初から自分がその場にいなかったことを思い知らされる瞬間。
皆が拍手し、笑い、涙を流すその中で、
ただ「早く終わってほしい」と願う者たちがいる。
有川ユイは、まさにそんな一人だった。
学校の体育館は拍手と涙、そして偽りの笑顔であふれていた。
完璧な制服、丁寧に整えられた髪、きちんと結ばれたリボン、輝く靴。
三年生たちは、卒業証書をまるで「より良い人生」へのパスポートのように抱えていた。
だが、3年B組の最後列に座るユイ・アラカワは、何も感じていなかった。
誇りも。
感動も。
未来も。
腕を組んで座りながら、その視線は誰にも向いていなかった。
クラスメイトにも。
壇上にも。
そして、自分自身にも。
ダークブラウンの髪は即席のポニーテールにまとめられ、肩に無造作にかかっていた。
顔は鋭く、寝不足と沈黙によって硬くなっていた。
制服は清潔だが、襟はしわだらけで、ブレザーのボタンは留めておらず、興味のなさを物語っていた。
胸元にあるはずの赤いリボンは…なかった。
彼女は椅子の上でわずかに体を揺らしながら、足を開き、右足をせわしなく動かしていた。
まるで、順番を待つボクサーのようだった。
後方の保護者席には、彼女のための誰の姿もなかった。
写真を撮ってくれる人も、
名前を呼んで拍手してくれる人も。
校長がマイクの前に立った:
「三年生の皆さん――今日、皆さんはひとつの章を終え、現実の世界へと旅立ちます。成長し、多くを学び、困難を乗り越えてきました…」
困難?くだらない課題とグループ課題のこと?
ユイは頬の内側を噛みながら思った。
「皆さん一人ひとりが、独自の輝きを放つ星なのです…」
すでに燃え尽きた星はどうなるの?
「この学校が、皆さんの“家”だったことを忘れないでください…」
ユイはわずかに顔をそむけた。
クラスメイトたちは抱き合い、涙を流し、セルフィーを撮っていた。
誰も彼女を見ない。
誰も話しかけない。
誰も彼女を含めない。
彼女は「問題児」だった。
何度も停学になった。
友達を守るために鼻を折ったこともある。
屋上で喧嘩し、負けなかった。
彼女は思い出ではなかった。
「警告」だった。
式が終わると、みんな校庭へと出て行った。
笑い声。涙。写真。
だが、彼女の名前を呼ぶ声はなかった。
誰もハグしなかった。
誰も一緒に写真を撮りたいと言わなかった。
彼女は片手で卒業証書を持っていた。
それはまるで、沈む海で掴んだ木の破片のようだった。
周囲を見渡し、ため息をついた。
「…チッ。もういいや。」
そして、去った。
振り返ることもなく。
誰にも見送られずに。
それが、彼女の卒業の日だった。
皆が涙し、夢を語り、明るい未来を誓ったその日――
彼女だけは、決して馴染めなかった冷たい壁に別れを告げたのだった。
ユイは一人で区内の道を歩いた。
卒業証書はリュックの中で折り曲げられていた。
空は曇り、灰色の雲に覆われていた。風は冷たく、無関心だった。
待っている夕食などなかった。
待っている誰かも。
彼女は四階建ての古いアパートの階段を上った。
剥がれたペンキ、湿気とタバコの匂い。
304号室。
鍵を差し込み、中へ。
それは「家」と呼べるには小さすぎるワンルームだった。
古びた畳、小さなキッチン、折りたたみベッド、半分食べかけのインスタントご飯の箱。
小さなテレビ、そして一番大切な避難場所――ボクシング用品の入った金属箱。
すべての費用は自分でまかなっていた。
夜は店の掃除。
日曜はパンの配達。
薄給。常にギリギリ。
制服を脱ぎ、ベッドに放り投げた。
スポーツブラに着替え、トレーニングパンツ、手首用のバンテージ、すり減ったシューズ。
グローブ、タオル、水筒をリュックに詰める。
鏡を見た。
額にうっすらと汗、目には空虚さ。
「一時間。叩いてから、仕事。」
そして出発した。
地下のジム。コンクリートと湿気の聖域。
壁には何年もの汗が染みついていた。
誰かが鍛え、誰かが叫び、ただ努力の音だけが響く場所。
「左!右!もっと速く!ガードを下げるな!」
ユイが入ってくると、視線を向ける者もいれば、わざと無視する者もいた。
歓迎されてはいなかった。
だが、誰も追い出さなかった。
彼女が強いと、誰もが知っていたから。
空いているサンドバッグに向かい、グローブをはめる。目を閉じる。
息を吸って――
バンッ!バンッ!バンッ!
正確なパンチ。
リズム。
怒り。
「誰もいない」
「誰も私を必要としていない」
「叩いてる間だけ、自分でいられる」
一発ごとに、空虚さへの答えを叩きつけた。
孤独に。
あの卒業式に。
そのとき、彼女の隣に影が立った。腕を組んだ男。
「卒業式、どうだった?」
イオキ・カズマ。
元全国チャンピオン。
このジムのオーナー。
そして、彼女を一度も裁かなかった唯一の人。
「…特に何も。」パンチを止めずに答える。
「感動的だったか?」
彼女はサンドバッグに額を押し付けた。
「未来ある人のための、綺麗な言葉集だったよ。」
カズマは顔を伏せ、ため息をつく。
「今日のお前、まるで爆発寸前の爆弾みたいだったぞ。」
「それが?」
「驚かないけど、気になる。」
ユイは振り返り、少し潤んだ目で彼を見た。
「なんで気にするの?」
「お前、まるでそれしか自分を保つ手段がないような顔して殴ってるからだ。」
「だって、それしかない。」
沈黙。
「お前は勝つために戦ってるんじゃない、アラカワ。
壊れないために、戦ってる。」
カズマは去っていった。
ユイは一人残された。
返事をしないサンドバッグを叩きながら。
けれど、その内側で――
何かが揺れた。
遠い、かすかな火花。
まるで誰か――あるいは何か――
まだ彼女を信じているかのようだった。
数時間後、ユイはリングの縁に座っていた。
息を切らし、疲れ果てていた。
カズマが水を手に近づいてきた。
「ここに来て、もう四年になるな。」
ユイは彼を見つめたが、その言葉の意味をすぐには飲み込めなかった。
「初めてお前に会った日のことを今でも覚えてる。
自分の居場所を守るために、街中で誰にも怯まずに立ち向かってた。
あのとき、お前には“何か”があると感じたよ。
怒りもそうだが…可能性もあった。」
ユイはタオルを握りしめた。
カズマは落ち着いた眼差しで彼女を見ていた。
「強くなったな、アラカワ。だが、まだ足りない。」
「…何が?」
「“理由”だよ。」
ユイは目を伏せた。
「お前の戦い方は、まるで消えたがっているようだ。
生きたがってる人間の戦い方じゃない。」
カズマは背を向け、歩き出した――が、去る前に一言残した。
「お前には、素晴らしいボクサーになる資質がある。
だが、自分の中にあるものを乗り越えなければ…
いずれそれに喰われる。」
そして、彼はジムを後にした。
ユイはひとり残った。
膝の上に置かれたグローブ。
汗に濡れ、震えながら――
どんなパンチよりも重たい胸のつかえと共に。